09
わたしが溶けるもの
最初のうち
林の中を歩きながら
わたしはずっと考えていた
いつになったら目的地に着くのだろう
ここは湿地から続く高山の草地で
足の裏にぬかるみを感じていた
歩く足の裏に
地面を覆う草の根と柔らかい土
木々は高く陽が薄く薄くさしている
頭と足の動きが同じくらいの時が終わり
だんだんと足の動きだけが
わたしを前に進めていった
頭はしびれたように動くことを休んでいた
唐突に林の終わりがきた
足の動きのおかげで
わたしは終わりまでちゃんと動いてきた
林の終わりはちょうど
太陽の陽が線引きされて
林が終わったところから
白く赤くうすみどりの輝きが
地面に光っていた
わたしはまた歩いた
今度は足ではなく
頭がどんどんと前に進みたがった
足は頭を追いかけて
歩くごとに新しくなっていく頭に
いつしか憧れるようになっていた
農夫のおばあさんが
穀物を刈り取った畑に着き
そこからの道を教えてもらった
おばさんはわたしの目指す目的地を
知っているようだった
そこは畑を過ぎ
新しい森の影をゆき
平地をまっすぐ行った先にある
砂浜だった
そこに立った
わたしの視界には
青い青い全てを飲み込む海があった
大きな大きな海しかなかった
わたしの目から海が入ってきて
頭がそれを吸い込んだ時
わたしは初めて
自分の目が開くのを感じた
メキメキと音を立てて
頭が開き
わたしの宝石でできた目が
頭の奥から現れた
わたしの宝石の目に
映るものは
眩しい輝きを増す
海の光を吸い込みながら
わたしの足が歩き出し
わたしは海に入って行った
体がすっぽり海に収まると
わたしはだんだんと
自分の中身が
海に明け渡されるように
すっかり体から
出てしまった
頭も足ももう役割を終えて
空いた体に海が入ってきて
わたしは海になった
深海から浅瀬から
海溝から岸辺から
海にある水がすっかり
わたしの内に
入ってきた
わたしはすっかり海に溶けて
わたしはすっかり海になった
全身が溶けて
快感がわたしの世界を
まっしろに塗り替えた
わたしのクライマックスは
まっしろな視界の中で
体の内も外も
同じものになり
わたしはとても
うれしかった
わたしは海になった
自分への素直さ
裸足
ショートカット
着心地のよいワンピース
おばあさんの視点
海
測れない大きさの存在
歩くことをやめなかったご褒美
一体感
見たいものを見れた喜び
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