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わたしを分け隔てるもの
重い重い金属の扉を閉じて
わたしは行き来のしにくい場所を作った
並大抵の力では開けることができない
鉄の扉は
守るためのもの
ここを閉じている間は
わたしの考えやわたしの希望が
人に漏れることはない
ここを開けて入った先で
わたしはわたしを折りたたんで
歴史の受け入れながら
自分の柔軟性を生かしてきた
歴史を自分の中に折りたたみ
受け入れることで
間口を広げてきた
生活するということは
そういうことだ
わたしの鉄の扉が開くとき
そこには中にあふれている希望が
扉の外にあるものと呼応するとき
わたしの頬が柔らかく緩むとき
みずみずしい希望が
扉の内と外で共通するとき
わたしはにこやかに
希望を招き入れる
扉の内側には
体を自由に揺蕩わせる
みずみずしい希望の流れがある
ウォータープールのように
流れ希望を運ぶその潮流は
わたしの内にあって
宇宙の法則と共鳴しているもの
わたしの内にあって
外界の宇宙そのもの
大きく開かれた宇宙の潮流を
まざまざと感じるとき
わたしは体を脱ぎ捨てて
重たさを測れない場所に
ゆっくりと流れていく
わたしが作った鉄の扉は
受け継がれ
代々身を守るものとして機能する
そしていつか使い終わったら
部品がバラバラに溶けて
消える
わたしは扉がなくなるときを
迎えるために
扉を作った
無くしてくれるものが
誰なのかはわからない
わたしはそのものに
無くしてくれた
喜びを伝えにゆくだろう
ここで
すっかり重たさのない体でいることは
まるで体を持つ前に
元に戻ったような心地がする
体がなかった時のことを
また思い出したわたしは
膝に
胸に腹に
無くなってしまって
よかったものを
大事に思い
その思い出を抱えている
わたしは
無くなっていくことが
うれしい
残すことよりも
使い終えることが
物の本当の役割だからだ
無くなっていくことは尊い
陰陽の太極図のように
有るものと無いものの比率は
常に同じく
無いことがあることの証明になり
無くなったものはそこに
あったことの価値を残している
あることと無いことは
同じ
わたしが体を使って
確かめたかったことは
そのことだった
いいものを
わたしは
ちゃんと
見つけたのだ
座布団
人を選ぶ
残すことと無くすことの価値
頬が緩む相手
暮らすことへの柔軟性
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