top of page
検索
  • sunao

10




10


わたしを分け隔てるもの


重い重い金属の扉を閉じて

わたしは行き来のしにくい場所を作った

並大抵の力では開けることができない

鉄の扉は

守るためのもの



ここを閉じている間は

わたしの考えやわたしの希望が

人に漏れることはない




ここを開けて入った先で

わたしはわたしを折りたたんで

歴史の受け入れながら

自分の柔軟性を生かしてきた



歴史を自分の中に折りたたみ

受け入れることで

間口を広げてきた


生活するということは

そういうことだ



わたしの鉄の扉が開くとき

そこには中にあふれている希望が

扉の外にあるものと呼応するとき



わたしの頬が柔らかく緩むとき

みずみずしい希望が

扉の内と外で共通するとき


わたしはにこやかに

希望を招き入れる


扉の内側には

体を自由に揺蕩わせる

みずみずしい希望の流れがある


ウォータープールのように

流れ希望を運ぶその潮流は


わたしの内にあって

宇宙の法則と共鳴しているもの


わたしの内にあって

外界の宇宙そのもの


大きく開かれた宇宙の潮流を

まざまざと感じるとき


わたしは体を脱ぎ捨てて

重たさを測れない場所に

ゆっくりと流れていく


わたしが作った鉄の扉は

受け継がれ

代々身を守るものとして機能する


そしていつか使い終わったら

部品がバラバラに溶けて

消える


わたしは扉がなくなるときを

迎えるために

扉を作った

無くしてくれるものが

誰なのかはわからない


わたしはそのものに

無くしてくれた

喜びを伝えにゆくだろう


ここで

すっかり重たさのない体でいることは

まるで体を持つ前に

元に戻ったような心地がする


体がなかった時のことを

また思い出したわたしは

膝に

胸に腹に

無くなってしまって

よかったものを

大事に思い

その思い出を抱えている


わたしは

無くなっていくことが

うれしい

残すことよりも

使い終えることが

物の本当の役割だからだ


無くなっていくことは尊い


陰陽の太極図のように

有るものと無いものの比率は

常に同じく


無いことがあることの証明になり

無くなったものはそこに

あったことの価値を残している


あることと無いことは

同じ


わたしが体を使って

確かめたかったことは

そのことだった


いいものを

わたしは

ちゃんと

見つけたのだ






座布団

人を選ぶ

残すことと無くすことの価値

頬が緩む相手

暮らすことへの柔軟性

Comentários


Os comentários foram desativados.
bottom of page