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わたしは自律している
絶対に開けたくない扉に
私は柔らかくて
溶けそうなものを
隠している
その扉が開いてしまうと
わたしの心は絆され
目に映るあらゆるものを
好きになってしまう
隠してはいるが
この心が溶けている瞬間の
一体感が好きだ
恥ずかしいほどに
しあわせだ
爪先立ちでキスをせがむ仕草が
自然に湧いてきてしまう
愛の滝に身体中打たれるために
扉を閉めていた
断食して
お腹をすかせておけば
最初に口にしたものが
鮮烈においしいと感じられるように
愛の滝はなんて気持ちがいいんだろう
体が溶けた後
岸辺にもたれてまどろんでいたわたしは
甲冑をつけた騎士が
こちらに近づいてきたことに
気がついた
騎士はにこやかだったが
鎧は冷たく
カブトは重く
わたしがいる世界とは
違うシステムで
動いている社会にいるんだと
感じられた
騎士の体は暖かだったが
わたしはついては行かなかった
この愛の感覚を
口で説明することなんて
できない
表現しようにも
形容できる言葉がないのだ
愛とはわたしを生かすもの
愛とはわたしを育てるもの
愛とはわたしに教えるもの
性愛でも
博愛でもなく
わたしの体が自律して生きている
そのシステムそのもの
わたしが辿り着くのは
万物を生かして存在させている
この理由のない不思議な
システムそのもの
愛があることに
理由なんてない
わたしはそのことを思い出すために
無くす経験を踏み越えてきたのだ
わたしを貫く
この仕組みが
わたしにとっての
豊かさ
誰にも奪うことができない
そもそも取ったり取られたりできるものではないのだ
誰にも
騎士にそのことを
わかってもらいたかったが
やはり説明は
できなかった
まどろみのまま
わたしは岸辺を離れて
草を歩き
庭園のはじに出た
そこにはバラ園が小さくあった
今までは
バラに目を惹かれることがなかったが
眺めていると
どうもここに咲いているバラは
これまで見てきた
花とは
少し違うようだった
じっと見ていると
庭園の奥で
茎の手入れをしていた
庭師が
順に枝をたどり
わたしの方にやってきた
わたしが佇んでいることを
目の端で柔らかくとらえ
花を生かす力のうつくしさ故だな
さもありなん
といった風に
目で挨拶をくれた
わたしはその時に
とても心が
緩んで広がることを
体の中で味わった
愛のシステムを
手探りで扱ってきた人物に
出会えたことが
わかったからだった
庭師の手は
愛を産もうとはしない
愛が花や枝や根や茎の中を
流れていることを
知り
ただその流れに手をかざして
いるだけだった
何も生まない
何も足さない
何も削らない
ただてをかざすだけの所作
愛がそこかしこに流れていると
わかっているから
庭師の手入れは
あっという間のようで
永遠に続いているようで
わたしは傍に腰掛け
ずっと眺めていたのだった
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