17
わたしは箱を持っている
わたしが持っているこの箱に
これまで集めてきた楽しみが
ぎっしり詰まっている
詰まっていると行っても
隙間なくギチギチではなく
箱の空間の中は広々としていて
ヒラリヒラリと記憶のページが
いくつもある
そんな風だ
わたしはこの箱を両手に持ち
嬉しく楽しい気持ちで
外に出かけた
川に入り
流れる水を感じながら
両手で箱を持ち
嬉しくいそいそと
先に進んだ
川は底が浅く
まだ足がついたので
わたしは自分の足のペースで
最初のうちは歩いていた
いそいそと嬉しげに
この宝物を持っていることが
たまらなく
わたしを喜ばせる
体が浮き立つような
みんなに誇らしげな顔を
振りまいているような
そんな気持ちが
湧いてくる
川はだんだんと水量が増えて
水の勢いが強くなってきた
普通だったら
足をすくわれて流されてしまいそうなものを
わたしは悠々と進んだ
無邪気な気持ちで
川の水が自分に当たることを
楽しんでいた
思えば水の勢いは
わたしにとっては
抵抗を感じるものではなかった
どんなに圧力が強くとも
わたしの体に当たると
わたしの体を通過して
その心地よい勢いだけが
心地よいものとして
わたしの感触に残る
水の方も
わたしがそんな風に
たのしんでいることを
知っているようで
どんなに荒々しく
流れていても
わたしには優しかった
箱を両手に持ち
浮き輪のようにして
わたしは前に進んだ
やがて河口から海に出た
海もあいかわらず
波の様子が荒々しかったが
わたしには問題ではなかった
箱を両手に持ち
今度は足で泳ぎ
前に進んで行った
遠くの方に島が見える
進行方向に
遠くの方に島が見える
そしてそれよりも
わたしの視野に
瞬く間に現れた
おおきなドラゴン
長い胴体をくねらせて
わたしの方に顔を向け
じっとこちらを見ている
わたしはドラゴンが来ても
前にすすむことをやめなかったので
だんだんとドラゴンに近づいて行った
怖くも
嫌でも
なかった
ただ自分の持つこの
うれしい気持ちが
わたしの足を前に進めた
ドラゴンの近くまで進んだ時に
わたしの体が宙に浮かび上がり
一直線に
ドラゴンの方に
飛んで行った
わたしは両手で箱を持ったまま
ドラゴンの口から
まっすぐに
ドラゴンの長い体の中に
入って行った
ヒュルルルと胴体の中を進み
目ははっきりと見えなくとも
どうやら尻尾に近いあたりまで
来ているとわかった
胴体の最後
行き止まりまで来た時に
なぜかわたしの体だけが
ドラゴンの体から
スポッと抜け出た
わたしがこれまで持っていた
箱はドラゴンの体の中に残った
どうやらドラゴンに渡すために
ここまで運んで来たらしい
持っていることが嬉しくて
全く気がつかなかったが
わたしの手から離れて
よかったようだ
その証拠に
あんなに箱が嬉しかったのに
なんの未練もない
わたしの体はスポッとドラゴンを抜け出て
そのまままっすぐに
空の高いところまで
飛んで行った
地球から飛び出て
ちょうど目の前に
現れた
白く光る星に
キャッチされた
星の中に入り込んで
体をくるりと翻し
元来た方向に目を凝らした
ドラゴンの中に残った箱
さようなら
運ぶことが
わたしの役目だった
白い星の光の中で
わたしはわたしの役割を終えたことを
あぁよかったなぁと思って
体から全ての力を抜いて
星に同化していくのを
穏やかな気持ちで
感じていた
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