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  • sunao

21





21


私は泣いている


私はこの体からせり上がってくる

涙をせき止めることができない

口を開いて

声をあげて

手を目元にかざして

わんわん泣いている



泣いていて

すごく


きもちがいい



あふれ出てくる涙が

どんどん水量を増して

太いホースで

シャワーを流しているよう


涙の中には

透明な水色に見えて

これまで味わって来た

感情がたくさんつまっている


選別できないドラマ


私の味わって来たドラマが

見えない粒になって

混ざっている


ジャバジャバと目から飛び出るままに

勢いよく噴水のように

とびだす涙


私一人で

思いきり

涙を噴出させる

健康的な感覚

どんどん出しつくして

やがて水量が治まって来たとき

緑の崖から流れてくる清流に

私は浮かんだ


涙を流しつくして

これまでのドラマを流しつくした私は

全身が

清々しく

空っぽになっていた


清流がさらさらと

私の体に入ってくるのが

わかる

さっき流していた涙とは

質量のちがう水


私の空の体に

流れ込み

川の流れとともに

私を海の方に

運んでいった


海に運ばれて

川よりも少し深い

波の下に下に進んでいくと

さっき私の体に触れていた

川の水よりも

旨味があって

味わい深くて

おいしい水が

体に流れてくるのがわかった


肌に触れるだけで

全身から

胸の内から




「おいしい」


「おいしい」


「ずっとこれを満たしていたい」



と声が聞こえてくるようだ


海の中の生きているものが

海の中に落としている

おいしいもの


肌触りでわかる

黄色く光る

生き物が感じている

生きている間の

「感じている」こと


海の水に含まれて

「感じていること」が

私の肌に触れて

おいしい心地に

させる





私の体は

どんどん下に進んで

海の底にある

岩の割れ目

深い深い地球の核を守る

海溝の端に

着いた


手をかけて覗き込むと

真っ暗な岩の割れ目に

私がたどっていけそうな

薄い灯りが見えて来た


ツイー


ツイー


と泳いで

私は黒い岩の間を通り抜けた

他の誰かだったら

怖がるかもしれない

暗くて狭い

先の見えない場所


そんな場所を

軽い気持ちで

苦もなく通れた私を

褒めた


私にとっては

当たり前の風景のひとつ

怖がることなんて

私にはなかった




そのまま黒い岩の最後の割れ目を

スイッと泳ぎ切ったら

思いがけず

角度がついて

海の浅いところから

陸上に躍り出てしまった



飛んで

降りた草地に

私は仰向けに

寝転んだ


空を見ながら

これまで肌で味わって来た

感覚や感情の

面白かったことを

思い出して

懐かしく笑った



そのまま少し眠ろうと

半分目をつむり

ごろりと横向きに

草地に体を預けた


この次は

どこにいくともわからずに

軽くあたたかな気持ちで

草の香りを嗅いだ


そうして

私の力が

体から

心から

すっかり抜けた頃


私が寝ている草が

体の大きさに切り取られ

私が寝たまま

草ごと

宙に浮かび

滑りだすように

空へ空へと

流されていった


私は眠ったまま

体の力がすっかり抜けて


私を包んだ草たちの小さな船で

私は宇宙に運ばれた


スヤスヤと眠る

軽い私は

草の船が運ばれるまま

スルスルと宇宙に流れていった


かろやかに

眠ったまま

スルスルと

宇宙を

流れていった

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