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  • sunao

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私は気がついたら

ずっと土星の輪を

周回する仕事についていた


惑星の周りにある輪は

小さな星や石や

圧縮されたガスの集まりなので

輪の上を移動するというよりは

小型の探査船の乗り

小さな星や石やガスの集まりの

少し上を

レールに沿って浮かびながら

回っている

というふうだった


この仕事はコツコツした姿勢が求められる

ところどころで

異常な石を見つけたら

それを探査船のデータボードに

情報を写し

詳しく構成要素を調べる

これが一体何の役に立つのか

私は知らなかったが

気がついた時には

もうこの操縦席に座っていたのだし

他にやることも思いつかないので

一つ一つの石調べを

私はかなり綿密に

こなしていた



ある時

一つ輪のレールから

はみ出た石があった

視界の端で捉え

あっと気がついた時には

石はもう私の目には見えないかなたに

飛び散ったか

粉々に砕けて

無になってしまっていた


一つはみ出た石の姿を

他の石達も見ていたのか

今度は一斉に

土星の輪にあった全ての石が

3秒の間に

方々に飛び散って

あっという間に消えて無くなってしまった



私はその時

この探査船が

小さな星でもガスでもなく

石の質量エネルギーで浮遊していたことを

思い出し

この船が土星の引力を外れて

この場所にいられなくなってしまう

恐ろしさを感じた


真っ青になったその瞬間

何かが私の頭にひたっと

付着した


それは一本の黒い線だった

そして

探査船が浮力をなくして機能停

止する前に

私の体が脱出窓から黒い紐に引かれて

宇宙空間の中に引っ張り出された



なすがままにしばらく宇宙を

紐に引かれながら移動していた


思えば私は

土星の輪の軌道上にしかいたことがなかったので

こんなふうにゆく当てもわからず

ただ流れるように動くことは

初めての経験だった


私は無性に腹の奥から

ワクワクした気持ちが

滲み出てくるのを感じ

両の手をぎゅっと握った


こんなことは初めてだ

私は今

未知を生きているのだ

知らないことを体で感じ

新しい動きをしているのだ

この黒い紐が何なのか

どこからきたのかはわからないけれど

今感じているこの

新しい気持ちは

私にとって

長い間求めていたものかもしれない




黒い紐に

頭を引っ張られながら

私は皮膚の表面から

うれしさの粒のようなものが

湧き出てくるのを見た




やがて私は引っ張られるままに

地球に降りて

初めて味わう重力に

感心していた


「ははぁこんな風に感じるのだな

重力とは

重みがあるということの感覚を

また新しく知ったぞ」




そして私は

気がついた


自分の足が

地面についている


地面に私は立っている



度肝を抜かれた


こんなことは

生まれてから

想像もしなかったことだ



「私は私の足で立っている!」



席にも座らず

誰にも支えられず

私は私の足で

一人で立っていた



生まれてから今まで

自分の体で独立したことがなかった私は

自分の体が

今、奇跡を使って存在していると

感じた



新しい空気が私の体を取り巻いて

見たこともない角度で

太陽が動くのを見た

私の降りた場所は

海の近くで

砂浜に波が押し寄せていた



私は立っている

一人で立っている

自分自身を初めて

一番正しい方法で

使ってあげられた気がした



私は立っている

私は一人で立てている


私は

初めて

自分の可能性と

出会った


土星から離れても

誰かに導かれなくとも

私はこの浜にたち


足の裏で砂の感触を

味わっている



自分に出会うとは

果てしない可能性に

出会うということだ




しばらくこの感触をしっかり味わってから

私はこの星での最初の一歩を

踏み出した






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