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  • sunao

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私は満たされている


たっぷりと溜まった

水瓶を私は上から覗き込んだ


なみなみときれいな水が

甕いっぱいにある

茶色い甕は重そうで

抱えて持ち上げることはできないくらい大きい


私は覗き込んで

最初のうちは自分が写るかどうか

眺めていたが

不意に足が滑って

甕の中にドボンと

入ってしまった


その水瓶には

底がなかった

私は頭から落ちて

そのままつるりと

底から抜けて

水の流れとともに

くるりとウォータースライダーを滑るように

流れ落ちた



草地の丘の上に

体がびしょ濡れの私は

ぽとりと落ちた


ふと右のほうを見ると

何か賑やかな音楽が聞こえる



そこはおとぎの国だった

薄い霧に包まれて

おもちゃのような人形たちが

パレードを開いている

楽しげな国だった



その国がとってもステキに見えて

私はすぐに心を奪われた

その時頭の後ろから



「ほんとうの優しさはなあに?」



と、声が聞こえた



ふしぎだったけれど

おとぎの国が面白そうだったので

私は行ってみることにした




国の門の入り口は大きくて威圧的だったので

私は脇にあった緑の小道の門をくぐって

中に入った


薄い霧の壁を過ぎて

街の中に入った


そこではおもちゃたちが

ニコニコした顔で

会話しあって

音楽を鳴らし

自分たちのキャラクターを

忠実に表現していた


私は最初は面白そうと思ったけど

誰に声をかけても

おもちゃたちは

あらかじめインプットされた答えしか

返してくれない


私は少しがっかりして

おもちゃの国から外に出た



そして

私は私がどうしておもちゃの国に引かれたのかを

自分の胸に聞いてみた

そしたらこんな返事が返ってきた


「あそこには喧嘩やいがみ合いがなくて

気持ちがとっても穏やかに過ごせるかと思ったの。



私は自分が抱きしめられるような

優しく大事にされることが好きだから



そんな風に過ごせるならいいなあと思ったの。



でもおもちゃたちは争うことはしないけど、


大事だなぁっていう気持ちが心の中に入ってないから


私は生きてる感じがしなくって


残念になっちゃった。


だから出てこようと思ったの。



私はホッとできる優しいことがいつでも大好きなんだ。」



ああだからか、と

私は気持ちをしゃんとさせた


丘の上にまた戻ってきて

私は空を見上げた

仰向けに寝転んで

いつの間にか夜になった空に

星を見つけられる時間になり

ぼんやりと

さっきの返事のことを思い返していた



そして

目の先で光っている星のうち

いくつかが固まって光っているのが

目に入ってきた


あの星たち

線で繋いだら

きれいな編み込み模様になるなぁ


と考えていたら

みるみる星たちの間に

私が考えていた通りの模様に

線が張られた


びっくりしていると

今度はその線がスルスルと私の方に伸びてきて

私の体をふんわり包んで

ぐんぐん空を登っていき

さっきの星たちが光っていたところへ持ち上げてくれた


星たちの間に引かれた線の

ハンモックに乗った私は

コロンとうつ伏せに寝そべって

さっきまでいた地球のほうを

振り返った



ここまできてみたら

あちこちにおとぎの国があったり

喧嘩や争いをしているのが見えるけれど

地球の周りは

「大丈夫の壁」が守っているのが

わかった



どうやら地球にいるときは

私は大丈夫の壁の中で

あっちにこっちにウロウロしていたらしい

ゆき場所を探さなくても

ちゃんと優しい壁に守られた中に居たんだなぁ


振り返って眺めていると

私にはそうやって

ちゃんとほんとうのことが見えた



星のハンモックに寝転んで

柔らかい星の明かりを手で触りながら

大丈夫の気持ちが満タンになってくるのを感じて

私はこのご褒美が

次はどんな風に

私を連れて行ってくれるのかを


楽しみに待つ気持ちと


緩んだ気持ちが


私の頭の紐を解いたのを感じて


ゆっくりと目を閉じ


しばらく眠ることにした




私は

とっても安心して


涙が出るような

嬉しくて顔が

ふやけてしまうような

気持ちを

お腹の中にしまいながら


星が起こすまで


ゆっくり眠った




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