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  • sunao

30




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私は駆けている


草地を黒い馬の群れが

たてがみをなびかせて

走っている

40頭ほどの

黒い一群が

艶のある毛を

風に吹かれながら

堂々と進んでいる



私は初め

このうちの一頭だったが

だんだん進むうちに

どうやら仲間たちとは

違う方向を向きたくなって

皆が東の方向へ進むなか

私は南を向いて

一人で駆け出した

轟々とひびいていた大きな音を離れて

一人で走ると

私の耳に届く音は

小さくかぼそくなった


少しさみしい気がした


少しさみしく感じたのは

一人でいるからではない

自分に返ってくる音や刺激や感触が

大勢でいた時よりも小さいので

物足りない気がしたのだ


だから、ほんとうの気持ちは

さみしいよりも

つまらない、に近かった


私を満足させるのは

大きな感覚

ささやかなものよりも

たくましく大きいもの

身体中で受け止めるのが

私は好きなのだ

好きなことは

私にモチベーションを与えてくれる


南へ走り続けて

平野の終わりの小高い山まで来たときに

私の体の下から

急に噴水が吹き出した


あっと驚いている間に

私の体は

高く高く飛び上がり

噴水の水のてっぺん、おおよそ30メートルは

空に近いところへ来た


体が高いところにあり

噴水の推力を感じるここは

私を満足させる

私をワクワクさせる楽しい刺激が

充分にあったので

私は嬉しかった

ここなら自分の感覚を全部出し切っても

周りに余計な影響を投げつけないし

のびのびできる

そう思った



まずは

背中から

隠して折りたたんでいた

羽根を伸ばした

右と

左の

背骨の脇から空に伸びる羽根


私の体をすっぽり包むほど

広がっている


次に体の色を

黒から白へ

息を吐きながら

戻した


そして

額に埋もれていた

宝石を

首とたてがみを振って

空気に触れるよう

体の外側へ

少し出した

額の青い宝石は

外気と日光に触れ

キラリと光を反射させた



白い羽根の馬でいる私は

清々しい気分でいる


噴水の力が衰えないので

私は噴水に聞いてみることにした

いつまで吹き出し続けるのかと


そうしたら噴水は

「あなたが私に乗っている限り

私は噴出すことをやめないでしょう

私がこの水圧を保っているのは

あなたがるからです

あなたがいるから

こんなに水たちが喜んで

空へ運ぼうとしてくれているのです」

と返事を返した


私は

なんだそうだったのかと

首を噴水に近づけて

一口、水を飲んだ


私の体の中に

水が流れ

腹に収まった時

私は私の体が

噴水の一部になったような気がした


体を振り返ってみると

だんだんと足の方から

水のように

揺れて透明になって

日光のプリズムに色づいている


もう一口飲んだら

今度は背中側が

透明になっていた

そして

3口、最後の一口を飲んだ時に

私の体は

噴水になり

噴水はペガサスのデザインを

そのうちに取り込んだ



噴水とペガサスが

一体となった私は

ただ垂直に吹き上がる水だった形が

だんだんとうねりながら

プリズムをてっぺんに称えた

羽根の彫像のような形状に

変化して行った



大きな二つの羽根と

しなやかな水柱が

日光に当たり

細かい振動を

あたりに振りまいている


この清々しく

伸びやかなフォルムで

周りの空気をスッと浄化していく喜びが

私を一番喜ばせることになった


私はこれができて

こんなに気持ちよく

ほんとうの望みが叶っている


だから私はいつまでも

健やかで

枯れることを知らないのだ


いつまでも

私は

私であれ


ここに喜びの柱を建てる




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