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私は大事なものを隠している
私が生まれた時に
この世に持ってきたもの
生まれたままの
純粋な水晶の原石
透明
黄色
青
白い木綿の布にくるんで
胸にしっかりと抱いて
隠してきた
追っ手に見つからないように
誰にも奪われないように
私は自分が
女そのものの
艶やかな姿をしているから
その器量で
追っ手をケムに巻いたり
いいように言葉で操ったりできる
だけどこの子を守っていることは
知られてはならない
私が胸に抱いている
ピュアな赤ん坊のようなこの
水晶たちを
どうしても守りたかった
時折そっと布を開くと
私にだけ微笑みかけているような
清らかさと
あいらしさと
気持ちよさが
腕の中に溢れる
この子はなんて
純粋ないい子なんだろう
見ていると
心臓の裏あたりから
上等なお水で洗われている
気持ちになる
この子のことは
誰にも渡さない
大切なものなのだ
私のまごころ
私はこの子をなくすことがこわかった
だから
追っ手の気配を感じたら
すぐさま立ち上がり
どんな場所でも
颯爽と体を使って
逃げた
強さと根性で
この子に害が及ばないように
守ってきた
つもりだった
ある時
赤い鉄でできた橋を渡っている時
後ろから追ってきた黒い男たちに
腕に抱えていたあの子を
かすめ取られてしまった
恐怖と落胆の塊が
私の頭上に叩き落とされたような
気持ちだった
立ち上がって追いかければ
手が届く距離で
私は怖さのあまり
体を動かすことができなかった
数歩先で
サングラスの男たちが
あの子の布の包みを
開いている
ああもうおしまいだ
私の隠してきた大事なあの子が
男の一人が
サングラス越しにあの子を見て
最後の布包みの覆いを
はらりと解いた
私は怖くて
目を閉じた
ため息が
男たちの間から
溢れた
目をつむって
すくんでいた私は
そこで何が起こっているか
見えてはいなかった
布の包みを外した瞬間
さっきまで黒服にサングラスだった
3人ほどの男たちは
あの子の放つ純粋な光を
遮るものなく
そのまま浴びて
小麦色の髪に
チノパンツを履いた
お人好しそうな男の人に
なった
見る間に姿が
様変わりして
黒い服が浄化されたように
優しげな雰囲気が
男の人から漂っていた
私は一瞬何が起こっているのかわからず
期待していた恐ろしい結末がこなかったことに
なぜか肩透かしを食らった気持ちになった
怖いことは
起こらなかった
あの子を抱いた
お人好しそうな
何人かの男の人が
私の方に歩み寄り
私たちがこの子の父親になるよと
私に告げた
私はまだ力が入らなかったが
あの子の光が
あんなに恐ろしかった男たちを
一番緊張のない状態に
すっかり戻してしまったことに
驚いていた
私の子
純粋なクリスタル
私が怖がっていたものを
すっかり遠ざけて
私が一番
心の奥で望んでいたものを
目の前に現した
光る子
私はまだ驚いていて
うまく口が回らなかったが
お人好しのお父さんが
私の背中に手を当てて3人で
私を抱きしめた時に
震える肩やみぞおちから
体の中にあった
恐怖がすっかり抜け
あの子を抱きながら
声を上げて泣いた
私はもう
完璧な幸せに
囲まれていたことに
泣きながら
やっと
気が付いたのだった
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