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私は待っていた
ココナッツの実を一つ
片手に持って
私は長い階段を登っていた
階段は石でできていて
古びた青っぽい色をしている
裸足で歩く私は
この階段の他に
歩く道がないし
振り返っても
階段以外に見えるものはない
この細い幅の段を一段ずつ登りながら
私は
雨が降りそうな雲や
風が吹く寒々しい感触に
この薄暗い世界から抜け出せないような気がしていた
だいぶ階段を上ったところで
私は階段の終わりが見えるところまで
歩いてきたことがわかった
段を登りはじ目た時には
全体が見えなかったから
わからなかったけど
登るにつれて
ジェットコースターが上昇するときのように
高度が上がり
頂上まで来た時に
一番てっぺんの数段先で
雲の隙間から
明るく晴れやかな光が
いく筋も
降りて来ているのが見えた
天辺に来るまで
階段を上った先の景色を想像もせず
足元を見ながら進んで来たが
ここに来て
私には
空からの光の出現と呼応した
希望のようなイメージが
胸の内に湧いてきていた
私が上って来た階段は
まちがっていなかった
この希望に気がつくために
自分で決めて登ってきたのだった
流線型の美しいロケットのような形をした
階段の終わりに来て
私は最後の一段をのぼった
そして
本当の天辺に両足で立った
私はその時
この世の喜びを全て集めたかのような
命がぎっしりとみなぎって
生い繁り
緑の木々が溢れる平野に
空の光が
あらゆるところに降り注いでいる光景を
見た
歓喜と涙が体の表面をにじませ
手に持ったココナッツを
あやうく落っことしそうになった
硬く甘い香りの実を
両手で心臓の前に握り
あらゆる自然現象の中でも
一番幸福な姿を
自分が目にしていることを
かみさまがいるなら
感動の言葉を身体中から叫んで伝えたいと思った
私がこの素晴らしい景色をに
やってこれたことは
私の未来予測には
全くなく
予想外の幸せな雷に打たれて
しゃがみこみ
震えた
私が来た道は
まちがっていなかった
それを
私の体から溢れる感動が
証明している
階段の最後の方で見つけた
空からの明るい光を
心がほころぶ瞬間を
私はちゃんと自分で感じたのだから
高い高い階段は
反対側に降りる道は作られてはいない
作られていたのは
のぼって来た暗い空の側の段だけ
私は天辺に立って
今、明るい方の空を向き
自分がこの嬉しい気持ちでいること
そして
先を歩く道が
今は見えないこと
自分の見ている光景は
この世で出会えるとは思ってもいなかった
豊かさをぎゅうぎゅうに集めたもの
そのことを胸の内で反芻していた
私は暗い階段の方へ向き直って
再び降りて、平地の側から
明るい空の下の景色へ迂回して進むことを考えたが
今のこの気持ちを持っていれば
先程までの暗い階段を降りることは
なんでもないことのように思えた
私は自分の幸せを
ちゃんと知っているし
心もこんなに喜んでいる
だから暗い階段へ降りることは
少しの我慢に戻るだけのことのように
思えた
目の端に
白い影が動くのが見えた
階段の方へ向いていた私は
くるりと体を返して
影を捉えた
それはコウノトリに似た
白く長い足の鳥たちだった
4、5羽の白い鳥たち
その姿を目視した瞬間
私の体は
階段の天辺から飛び降り
緑の平野の方へ
落っこちていた
平野へ山肌を背後に
急降下する私
驚くほど早く落ちていく
頭が考えるより先に
体が私を動かした
そして
白い鳥が飛ぶ上へ
心が私を移動させ
私は真ん中にいた
コウノトリの背に乗ることができた
突然に私が飛び乗ったのに
コウノトリは平然として
驚くそぶりさえ見せない
(時々だれかに飛び乗られて慣れているのだろうか)
緑の平野の上空を
コウノトリの背に乗った私は
そのまましばらく飛んでから
地面に降り立った
コウノトリは私に興味もなさそうで
仲間と水辺で憩いに
さっさと森の方へ行ってしまった
手に持ったココナツの実は
まだちゃんと手にあった
私は前方に
砂浜があるのが見えたので
少し歩いて
草をかき分け
やがて海にでた
そして砂浜に座り
ココヤシの実に頬ずりして
今自分が
ここにいることを
ココヤシに安堵の気持ちとともに
伝えた
耳をすませると
丸いココヤシの実は
小さい声で
初めて私に
話しかけた
「今あなたがここにいて
私も嬉しいよ
階段を上っている間も
落っこちた時も
コウノトリに乗った時も
いつも一緒にいたんだよ
そろそろ私の殻を割って
中の身を出してね」
私はそう言われたことに
少し驚きながら
近くにあった石で
ココヤシの周りのからを
コツコツ割った
そしてぱかっと筋が割れた時に
自分が今まで見て来た色の中で
一番白くて
一番明るい色が
ココナツの中から溢れているのを見た
私はその色を見た時に
なぜか胸がいっぱいになって
両手の中にある
真っ白な
甘い香りの実を
初めてあった
いとしいものもように
柔らかいまなざしで
じっと見つめ
幸せとは
こうゆう風に味わうのだなと
初めて知ることができた
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