top of page
検索
  • sunao

34


34


私は約束をした



私はたくさんの約束を

積み重ねてきた

その時々に出会った

たくさんの人と

その人との間に

必要なことを

一つ、二つ、三つ、四つ


五つ、六つ、七つ、八つ


途中から数はわからなくなったが

ともかくたくさんの約束を

してきた


それは

約束した相手との

より良い関係のためや

これから先の

お互いのしあわせを

願うためのものだった


私は約束した相手のことを

良い風に過ごして欲しいと思っていたし

私もまた相手と約束することで

守られたような気がしていた


私のしてきた約束は

あまりにもたくさんの数になり


いつしか高い塔になり

私の上にそびえ立つようになった


新しい約束をするごとに

塔は一段高さを増し

私が頭上に見上げられる空の大きさは

だんだんと細く

小さいものになっていた


ある時私は

何の気なしに

また新しい約束をしようとして

ふと空を見上げた


空が小さいことには

何も疑問がなかった(なぜならこの狭さが私を守ってくれているから)

が、見上げているうちに

私は久しぶりに大きな空を眺めて見たくなった



私の見る空は

元々はどんな風だっただろうか



その時の相手とは

約束するのをひとまずやめて

私は私の上にそびえ立つ

細く高い塔に上がって

そこからの景色を

自分の目で見てみることにした


新しい約束は

いつでもできる




塔の入り口は

最初に自分と交わした約束だった


もうなんだったか

はっきりとは覚えていないが

「人の役に立つように」とか

「ちゃんとする」とか

そんなようなことだった


かちゃんと入り口の約束を開けて

私は塔の正面から中に入った


塔の内部は

これまでに交わしてきた

おびただしい数の約束が

黒く交差した鍵になって

塔の上までびっしりと

積み重なっていた

私は

「やあやあ」と挨拶しながら

一つ一つの約束の鍵たちを

歩きながら開けて

一段、また一段と

塔の上の方に上っていった


黒い約束の鍵たちは

私が歩くごとに

ぱかっと開き

私がしてきた約束を

空中のどこかに

ふわりと放した


約束の鍵は

案外簡単に解除できるのだ


一歩、また一歩と

段を上がり

水色の空が見えてきた


塔の高く高くまで登り

一番最後の約束の鍵を開けた時

私はやっと

自分が見ていた

元々の空が見える高みへ出た



私の空は

とてものどかで

薄い雲が流れ

不安なことなど

全くありませんという顔をしていた


私は下の草地や遠くに見える牧場の様子に

安心して

自分が元々見ていた景色が

全くそのままある

うれしい気持ちだった


私はみんなとの約束を

すっかり空けてしまったけれど

それがなくとも

私は平和な気持ちで

のんびりと

塔の上から空を眺めていられた


私は約束破りだ

私は自分の都合が大切だ

私は私のやりたいようにやってしまう


過去の約束を全部忘れて

私は塔の上で

落ち着いた顔をして

草を食べる羊を眺めた


羊は約束など

できない顔をして

緑の牧草をモグモグと

噛んでいた


私はそれでいいと思って

今度からは羊のように

ただ平然と

過ごしていようと思った

Comments


Commenting has been turned off.
bottom of page