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切り立った岩山の
細い細い尾根を
私は片足で飛びながら
渡っている
身は軽い
くるりと宙返りできるくらい
軽い
服も薄く軽い衣を着ているし
私は心持ちも
爽やかだ
あまりたくさんのことを考える必要はなく
この軽やかな跳躍に
いそしんでいる
軽く遊ぶような心地
私はこの岩山の先にある
庵に巻物を届けに行く最中だ
巻物を読むのは未来の私
先の庵に着くと
未来から来た老いた私が
上座に座っている
今の私よりも
見た目は厚みがあるが
軽い素材の服を着て
私のことを待っている
私は巻物を届けに行く最中
岩山のてっぺんを跳躍しながら
時間の道を軽やかに
跳んでいる
この岩山は
元はこんなに標高の高い山ではなかった
私は地面の近くで暮らしていた頃
岩の柱がいく筋も
地面から隆起するのを
見ていたことがある
岩の柱は
だんだんと生えるように伸びて
大きな音を立てながら
私の背を超え
空の方に近づいていった
私はその様子が面白くて
心惹かれたので
ジャンプして岩の柱に飛び移り
見る間に伸びて行く岩や
地面の割れたところから
赤い色がウゴウゴとのぞくのを
面白い面白いと思って
飽きずに眺めていた
私は興味をそそられるものが好きなのだ
岩の柱が
古い木の背丈を越して
もっともっと
伸びて
だんだん裾野が広くなり
やがて雲に届く
立派な岩山になった
私は私を楽しませる
十分な遊び場ができたと思い
側転をしたり
飛び込み前転をしたり
とにかく体を跳ねさせて喜んだ
仰向けになって昼寝をしているときに
雲から降りてきた龍に
おつかいを頼まれた
これを向こうにいる
庵のものに渡して欲しいと
私は気軽に返事を返して
身を起こし
その巻物を受け取った
容易い頼みだし
その龍のことを知っている気がした
昼寝していた私は
することができてうれしい気持ちだった
ぴょんぴょんと
岩山を跳んで
私は庵に向かっていった
袖口がほつれ
糸がはみ出していた
私は全く着るものに頓着しなかったが
思えばこの衣を
長い長い間きている気がする
袖口の記事が
ほつれているのを見て
私は時間の重なりが
こうやって現実に表されるのかと
感心した
永遠を生きるものには
経年劣化がない
私は時間が経つことが
この衣で表現されていることで
一つの理を知ることができた
この場所では
時間は
ものの形を変える
いつまでも同じままの姿のものはない
永遠ではなく
私は「今」という時間の
積み重なりを
過ごしているのだなぁ
知らなかったことを知って行くのは
自分の体が
少し落ち着いたように
感じられることだ
ピュンピュン跳ねるのをやめて
私は足の裏をつけて
歩く進み方に変えた
足を地につけていた方が
一つ学んだ身にとっては
ふさわしい気がした
巻物に書かれていることも
この先の庵で
未来の自分に合うことも
そんなに興味はないが
自分のやっていることが
この「今」の時間にピッタリしているし
私の体感が積み重なって行くことは
なんだか面白く感じた
私は今を楽しむのが
好きなんだなぁ
てくてくと
岩山の細い尾根を歩きながら
私は
自分が今そこにいて
歩いたり裾を見ていることが
とても面白かった
そのことが
私を十分に満足させていた
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