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私は待っている
苔が生えて
厳かな
重い重い岩があった
昔は山の一部だったものが
宙を飛んで
どしんとある岩地に置かれたものだった
周りは少し丸みのある巨石だったが
その岩は
ザラザラとした表面と
黒っぽい色
引っかかりそうなデコボコザクザクとした形で
人を寄せ付けない
厳しい印象だった
長い間この岩は
威圧的な雰囲気を醸し出して
そこにあったが
ある時
岩の真ん中が
まるで扉のように左右に割れ
開き
二つに分かれた
そして
割れた岩の奥から
信じられないほどの純粋な水が
勢いよく流れて来ていた
この水の美しさを
讃えるための言葉が見つからない
混じりけなく透き通り
きりりと冷たい
清々しさ
あまりにも
純粋すぎて
この中では
生き物が生息できないほど
完璧な純度の水だった
溢れてくる水は
勢いが良かったが
決して人に害をなすものではなかった
ただただ澄んで
はじけるように湧き出し
流れて来ている
この水の存在は
厳しく古い岩と対になっていて
本当大事な時にだけ
岩が開いて
純粋が流れ出すようになっている
あまりにも純度が高い水は
人智を超えているものだった
勢いよく流れている水は
人のためでも
大地のためのものでもない
ただ水が溢れている
ということのためだけに
その水はあった
ただ純粋な水が
ジャバジャバと豊富にある
飲むことも
使って洗うこともできないが
そこにその水があるというだけで
人の心には
何か清められ
救われるような心地のするものだった
その水があるだけで
人は
許され
清められ
まっさらな本当の自分の姿に戻っていく
水という物質の
物理的、直接的な作用ではないし
他の水のように
触れられるものではない
だけど
この水があるということを知るだけで
途端に全身で
魂が現れるような沐浴を
感じるのだった
何も生まず
何も影響せず
何も変えない
その水は
見たものを
新しくし
心をひらかせ
清める
厳しい岩の奥から湧いてくる
明るく澄んだ水
エネルギーが湧き出すその
清々しい様は
昔は1柱と数えられ
社に奉られていた
自然の働きだった
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