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  • sunao

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私は座っていた



あたりは夜空の色をしていて

私のいる場所の周りには

何もなく

小さい星の光が

あちこちに

遠くに

瞬いていた




私は座ってその星や

夜空の暗い色を眺めていたが

あるとき

夜空や星の

代わり映えのなさに

飽きてしまった




立ち上がって私は




「おーい!つまんねーぞー!」




叫んだ



言い終わるか終わらないかのうちに

私の前に

黄金色の

彫刻のようなものが現れた


金に光って

凹凸のあるもの


反射する光に

よく目を凝らしてみると

それは

あの、妖精のティンカーベルだった



ティンカーベルは

羽を震わせ

飛びながら

私と夜空の間をくるりと回って

手に持った

指揮者の棒のような杖の先で

斜め上の夜空に線を引いた


線が引かれたところは

夜空が切れて

その奥にある場所が見えた

空間を切ると

重なっている別の空間が

繋がっていた



こちらは夜空

切れたところから広がっていたのは

ロードマップの地図のような場所だった


私は切り目から

足を踏み入れて

そっちの空間に体を滑り込ませた


爽やかな黄緑色の草に

背景は海

空は晴れていて

まるで合成写真のようだったが

夜空に飽きていた私には

それでもワクワクと好奇心を感じさせてくれた



そして

金のティンカーベルが

夜空の空間で

杖をもう一振りすると

私の手には

大きな世界地図がひらりと現れた



地図!



それは今までの私が決して持っていなかったもので

手にした今は私に興奮を思い出させてくれる

大切なパートナーだった


私は冒険がしたかった

どこかに乗り込んで出かけて

あたらしい視界を開拓し

経験して自分のフィールドを広げていく


自分自身が英雄のように

未開を恐れず

少年のように

探検していくのだ


明るい方の空間に出て来た

私のやりたいことは

これだった


私は地図を嬉しい気持ちとともに

丹念に眺めて

この大陸にはこう

この街にはどうと

大体の目星をつけて

自分がいざ現地に行くときに

どんなものが待っているか

楽しみな気持ちを

膨らませていった



私は全て陸路で移動すると決めて

私ともう何人かがグループになり

ジープで合成写真の草地から

本物の道に出て

勢いよく冒険に向けて

走り出した



この時に

私は

未来の自分が

今の自分を見ているような気がして

肩をすくめ

胸に下げていた

楕円のモチーフをキュッと

握りしめた


未来の私が

今の私を見て

冒険に出かけるこの好奇心を

守ってくれているような気がした


未来の私が

今の私に

このワクワクを感じる

贈り物をしてくれたと

揺れるジープの座席に座りながら

感じていた



胸にあるのは

少女のような

女神のような

人物のモチーフがついた

楕円の赤い石


右の手でぎゅっと石を抱きながら

私は未来の自分に

眼差しや

保護をもらっていることを

どこかホッとした気持ちで

受け取っていた


未来の私が

今の私を

かわいく

いとしく思っている


眼差しを送りながら

これからの私の道行きが

たくさんの

驚きと

楽しみと

幸福と

安らぎに

満ちていることを

喜んでいる


石を握りながら

私はもう夜空を眺めなくなったことや

地図を手にしたこと

クルーと一緒に

旅に出たこと

その一つ一つが

今は偶然に感じているけれど


未来の私にとっては

それらは必然の出来事で


そしてもっともっと先の

未来をはるかに超えたところにいる私には

まるで何も起こっていないようで

全てが同時に

始まって

盛り上がっている真っ最中の

パーティのように

見えているのかもしれないと

思えた




窓の外にうつる

見たこともない木のジャングルを

私は

今の自分が全てを集約している

一つの大切な結晶のようだと感じながら

ぼんやりと眺めて



一呼吸


ゆっくりと置いてから


クルー達に

これからの旅程を考えるための

おしゃべりを始めなくちゃと


息を吸い込んだ


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