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  • sunao

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ふくよかな座布団に

軽くふわりと乗っている

観音様がいる


全てのものを見通して

あらゆるものに眼差しを送り

よりそうでもなく

離れるでもなく

空気をはらんだショールを

間に10枚ほど

挟んだような距離感で

生き物に寄り添っている


ただそのようにしていることが

観音様には

自然なことなのだ



そういうふうに

生まれついている


観音様の膝元には

小さな生き物たちが集まり

緑のコロコロした妖精や

虫たちや

かえるや蛇なんかも

身を寄せて

観音様の周りに漂う


淡く柔らかで

明るい

静かなエネルギーに

憩い

癒されている


観音様は疲れる風でも

眠たげな顔をするでもなく

ただ、眼差しを向けて

小さいものたちが

コロコロとくつろぐ様子を

眺めている


暖かな空気に

安らぐものもいれば


なかなかよりつくことができないものもいる



観音様には

実はもともとは鬼の顔もあった

山で生まれたか弱い精霊だったときに

なかなか自分の良いところを活かせず

落ち着き場所を見つけられなかったので

自分の中に溜まった怨念が

溢れて鬼の仮面をかぶっていたことがあった


しかし、

命の基本的な部分が観音様のエネルギーを

ふんだんに持っていたために

いつしか鬼はだんだんと

傷を癒し、

元のか弱い山の精霊に戻り

静かに山に眠ることになった

観音様を生きるということは

弱さを持つことを

許す

ということでもある


だから

周りにいる

か弱く小さいものたちが

憩いに集まってくるのだ


暖かなふかふかの座布団に

ふくよかなてのひらや

形の良い足の爪を並べて

座っている


観音様の姿を見るだけで

草木や

虫や

木々、花、空、小川

そして年老いた者から

旺盛な者まで

みな幼子の顔をして

体から

硬いものがスッと抜けていく



感情の揺れがない観音様を見るだけで

みな自分の中の

心の揺れがおさまってしまい

特に余計なことをする気にならず

ふっと眠たいような

幸せな顔つきになるのだ



観音様は

時々月を見上げる


濃紺の空に

一筋、爪で切り取ったような

甘夏色が浮かんでいる


観音様はそれをじっと見て

地球で見ることのできる

光の演出は

なかなかに手が込んでいて

面白いものであると

感心した風に

唇を結ぶ



静かに

落ち着いている観音様には

演出も

仕掛けも

企みも

なかったが

ただそこに

座布団にふわっと座しているだけで

自然とみなが

元の柔らかい顔をした子供に戻る



観音様はそれを

なんということもなく

眺めて

ただ穏やかに

座している



与えるでもなく与え

聞くでもなく聞き

教えるでもなく教え


ただ座している



これが

本当に豊かなことなのだ


皆が一目でわかる佇まい


これが本当に

全てを与え

同時に受け取る

ということなのだ


そう

座布団に座して

皆に

教えていた



これが

本当に豊かなことなのだ


それで十分なのだと


観音様も

周りのものも

よくわかっていた


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