top of page
検索
  • sunao

46



46


大聖堂の石工は

生粋の職人でないと務まらない


石を選別し

模様や色みを吟味し

硬さや

柔らかさを見立てて

大聖堂のどの部分にあてがうのがふさわしいかを

決めるのだ


それは

木の階段を斜めに打ち付けるような技であってはならないし

木の樽の板組を、ちぐはぐにつけてバラりと外れてしまうようなことも持ってのほかだ



大聖堂を作る石工は

手を抜かず

一心に石と

その石にふさわしい形を

見るのだ



石工は

骨の髄まで職人仕事が好き

というタイプではなかったが

手をつけたからには最後まで

自分の感性の物差しを

きちんと使い

収まりのいい

石たちのはまり方

長く崩れることのない

組み合わせができるまで

きちんと仕事をし

休憩以外では手を休めなかった


石工の職業的な職人としての

才覚は十分に街に認められるものだった



石工は大聖堂を立てるような大仕事にも

携わっていたが

誰にも教えていないが

本当に心が愛になるのは

石で小さな像を掘ることだった


大聖堂を作る道具とは

全く別物の

細かい彫刻刀や

磨き石を使って

石工は

片方の手のひらに

すっぽりと治る

小さな聖人の姿を

彫った



石工には

石の中に人の似姿の

何か聖なるものがいると

感じることがあった


大きな石を

大聖堂ように選別している最中に

これは、と思う素材を見つけると

工房に持ち帰り

一人の時間を見つけては

少しづつ磨いて

丸い顔や

細い形や

愛らしい輪郭の

聖なるものを

石の中から

ノミや槌で

コツコツと

出すのだった



石工の腕前は

安定した技術だったし、仕事の発注者のパトロンも

太鼓判を押していたが

実は小さい聖なる石の人たちのことは

誰にも言わずにいた


石工の作る

小さな聖人たちは

清々しく

愛らしく

優しい風貌だったので

商売にしてしまえば

簡単に一稼ぎできることはわかっていた


しかし、

それは石工にとって

心良い聖なるものとの付き合い方ではなかった


心の中で信じていることは

金に変えなくともいい時がある

生活に困っていようが

技術を評価されたかろうが

それと

小さな聖人たちを作ることとは

全く別の次元のことだった


そして、何度か人にやったりもしていたのだが

皆、礼にといくばくかのコインを

渡してきたが

なんでだか皆、自分たちの元に

ささやかな幸せや

大きな幸せがやてくると

この小さな像のおかげだと言って

石工の元へ感謝とともに

渡したはずの像を返しにきた


石工にはさっぱりわからなかったが

帰ってくるものはしょうがない

こちらで居場所を作ってやろうと思い


あまり人の来ない山手の方に

土を掘ったささやかな祠をこしらえ

段々に並べて

小さな聖人たちに

安住の地を

プレゼントした



石工に信仰は取り立ててなかったが

自分の心が満足するように

手を体を動かし続けた結果

勝手にそんな風になったのだ


意図がなく

心に従って働くということは

いつの間にか

何か大切なものが

自然に生み出されている

ということなのかもしれない



石工はこのささやかな祠のことを

特に誰にも話さなかったが

何年も経ち、

その道を通る巡礼者たちの立ち寄る

祈りの場になり


訪れるものは

心に会う像を持ち帰り

心にあるものが成就したらば

再び祠を訪れ

持ち帰った像を

感謝とともに返していった




大聖堂ができてからも

ささやかな祠に立ち寄るものは

多くあり


石工の魂が天に登ってからも

長くいくつもの国の旅人たちに

愛されていた






コメント


コメント機能がオフになっています。
bottom of page