top of page
検索
  • sunao

47




47



砂漠の中で

私はあるとき

もうこの砂ばかりの場所に居たくないと願い


足元の穴から

地底の穴の中に

落っこちた



流砂に巻き込まれるように

もがく暇もなく

一瞬の出来事だった



壁にチラチラと明かりが反射する

洞窟のような場所に落ちた


砂ばかりの地上を歩いていた時

私は自分の進路が抑圧されていると

感じていた

歩を進めようにも

私を押し付けるように風が吹いたり

砂に足を取られて転んだりしていた



だからもう

地底に落っこちてしまうことにした



ここは隔離された場所で

地上のように熱や砂や風に

行く手を阻まれることなく

身の安全が守られていた


私はホッとして

まずは壁伝いに

明かりの見える先の方へ

歩いて行くことにした


地底の道は

水に濡れていて

どうやら地下水路が近くにあるらしい様子だ



地上の圧を逃れられて

安心している私は

水の潤う気配や

落ち着く明度の空間がすでに居心地のいいものになっていた


しかし

ところどころで

地上の熱風が吹いて、圧の恐怖を感じる箇所があり

私は先へ先へ地底通路を進み

逃れるために

なんども方向転換をして

外側の回廊から

内側の回廊へ

どんどん深い部分へ入っていった


段々と内部へ内部へ入って行くうちに

私は圧に追われてはいたが

不思議と道しるべの明かりや

暗く潤った空気に助けられ

自分の力が回復して行くのを

感じていた


家族の伝統や

社会的な自分の理想ではなく

この暗くみずみずしい空気が

肌に触れ

安らぐ明かりの色が自分の行く先に

必ずあることが

私を私らしくさせてくれていた


やがて段々と通路が最奥の部屋に至り

駆け込んだ中央の部屋で

私は玉座に安置されている

丸く青い宝玉を見つけた


私は砂漠では決して見つけることのできなかった

うつくしさと

深みのある青い色と

それが自分のために用意されていた

重要な宝物だと

はっきりと分かった


砂漠の熱風に追い立てたれて

逃げこむように入った場所で

私は私自身の

重要な遺物を手に入れたのだった


そして宝玉に近づき

そっと指で

手のひらで

そのひやりとした重たいたまに触れた



その時だった


宝玉の中から

みずみずしく光る波が

勢いよく発せられて

部屋中がさっと

水色の光でいっぱいになった



その色に光に

目を貫かれた私は

腕で目をかばいながら

自分の中に眠っていた

エネルギーの源泉が

あふれ出したのを感じた


肚に、腕に、足に、頭に

力がみなぎり

うおおおおと声をあげた


私の力が呼び覚まされ

自分が何者だったのかを一瞬にして思い出した


私は私の愛するものを

自分で選ぶ喜びを

思い出した


涙が溢れた

自分が自分のために

自分の愛を表明することを

私は自分に許していたことを

やっと

はっきりと思い出せたのだ


そうなったら

もう怖いものはなかった


部屋の入り口から

砂漠の熱風の残りが

ちろりと吹き出してくるのを見


激しく怒りや興奮とも判別できないものが

私の中から沸き起こり

握ることもできない熱風を

捕まえて今までの恐ろしさを

反対に叩きつけてやる意気込みで

私は部屋を飛び出し

地下通路を逆に戻り

熱風の橋を追いかけた


絶対に懲らしめてやりたかった



そして最初に自分が落っこちてきた穴から

外に出るために

勢いよく壁を走り

マグマが噴き出すように

再び砂漠に転がり出た


そして

にくい熱風はどこだ!と

辺りを見渡した


肩で息をし

ギラついた目で

敵を探した




はぁはぁと荒い呼吸を繰り返し

段々と体が落ち着いてきた頃

私はさっきまでの

内部爆発したようなエネルギーが収まり

平常心にもどっていた


そして落ち着いた頭で

自分の敵は一体なんだったんだろうと

振り返った


砂漠の熱風は

砂漠なら

どこででも吹いている

私にだけ特別ひどく吹きつけるようなものではない

暑さも太陽も砂のざらつきも

砂漠にいるなら当たり前のことだ



地下通路の奥の部屋で

私の宝玉を見つけたことで

自分の体に

自分の心に

しっかりとした軸を

思い出すことができていた



軸のある私には

過去の私がいまいましく感じていたものが

ただの自然現象であったと

思えていた


地球の上で起こる

万物の自然現象


全ての愛の表現


熱風も

その一つだった

子供の帰りを案じる母の声のようなもの

それは自然なこと

自分が生きていることを感じさせてくれる

自然の風だった


私は自分の宝玉を持った

私の中には軸がある


砂漠にいることはそろそろやめてもいいだろう


どこにいても

その土地の風が吹く


どこにいても

繋がりは途切れない


私は私の愛するものを思い出し

それを今度は

大切に守ることを

しっかりと自分に約束して


砂漠に別れを告げ

新しい土地に旅立つことにした


追われなくとも

私は私の行き先を

自分で決める


私は誇らしい気持ちで

砂漠での経験に深い感謝を表し


ゆっくりと東の方へと

歩いていった




Комментарии


Комментарии отключены.
bottom of page