50
私は守りたかった
私は私の大切なものを
守りたかった
だから
いつも傍に
私の大切なものを
置いておくようにしていた
隠して置いたり
遠くに保管しておくよりも
私自身が近くにいて
肩身を寄せて
寄り添っていることで
私は私の大切なものを
守ろう
私は自分の大切なものを
私たちに襲いかかってくる
手強い相手から
守るのだ
理不尽な理由で
私の大切なものを奪おうとしてくるものたちに
私は必ず抵抗し
防御する
私の大切なものは
手のひらに収まるくらいの
丸い光の玉だ
玉は生きている
天使のような
赤ん坊のような
ぼーっとしているような
賢いような
ふわふわと地に足のつかない様子で
光っている
私はこの丸い光のことが
大切で
とても愛おしく思っている
この子のためなら
私は私の力を捧げて
この子の安全を守り抜こう
そうやって
私は私の自尊心をしっかりと働かせ
ふさわしい行いをすることを
自分に課している
私という人間のプライドが
私にふさわしい行いを示している
私はあの丸い光の玉を
抵抗勢力から守りながら
同時に
あの丸い光が
私の胸に宿っていることで
生きていたいという気持ちがわき
あの光から
守られているなと
実感している
守りたいものを守ること
守っているものに
私たちのつながりは
そんな風にお互いがお互いを支えている
私は黒いドラゴンだったことがあり
髪の長い武将だったことがあり
そのどちらの時も
私の傍に
私が守っている存在があった
ドラゴンの時は
翼を広げ火を吹いて
理不尽で野蛮で
自然の秩序を乱すものから
守っていた
武将の時は
社会を動かす身分の高いものの政略から
ものに目が眩んだ
人の理を踏み越えてこようとするものから
守っていた
どちらの時も
私は
胸に光があることに
癒されながら
自分の力を正しく奮って
大切なものを守った
奮闘して
戦った
私はそろそろ
守っているものに
守られている安らぎを
ゆっくり味わいたいと思っている
私自身が
力や武力で
その大切なものを守っている時代は
終わりを告げようとしている
私は戦いに疲れた後
縁側に腰掛けて
安堵のため息をつくように
心の奥にためてしまっていた
疲れを
ここらで吐き出して
休息を取ろうと思う
手のひらで
傍の光の玉を見ると
光の方でもこちらをじっと見て
何かしたそうに
物言いたげな様子だ
私は仰向けにひっくり返り
時間をかけて
深く深く
ゆっくりと
息を吐き
体の中にしまわれていた
戦いの疲れを
呼吸に乗せて
体の外に出していった
体の中の
思っても見ないようなところに
気が付いていなかった
黒い影が隠れていた
それらはゆっくりと
私の口から空気中に吐き出されていった
私はすっかり
息を吐き切り
体の中も
心の中もすっかり空っぽになっているのを感じた
私の傍の光は
空気中に
自然に消えて無くなっていく
私の疲れを見た後
少し小さい光になって
スルスルと
私の口から
私の中に入ってきた
そしてのどの辺りで
小気味好い
澄んだ音を立てると
体の隅々まで
光のかけらを
さぁっと広げ
私の体に自分の光を
溶かして
一つになった
そして今は
私の体には
あの光が一体となって生きている
自分だけの体でも
あの子だけの体でもない
私は私を見ながら
あの子を慈しむような気持ちで
私に眼差しを送る
私の体は
軽くなり
動きやすくなっていた
そして
身体中から
薄い水色の光を放っていた
守るものは
私の中にいる あの
軽やかな光の子
生まれ変わったような気持ちで
私は
空に雲が流れていくのを
見ていた
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