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  • sunao

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わたしの中には


この銀河が誕生してからの



全ての記憶が詰まっている




それは膨大な情報量なので



わたしはかえって口を噤んでいることが多くなった


多すぎる情報は



文字には当てはめきることができない



たくさん持っている記憶の番人として


わたしは鍵のかかった入り口として


この体を持っている



この鍵を開けていく過程で



わたしは旅人でいることを選んだ




必要な時に


必要な場所で


必要に応じて


ふさわしい情報を



ふさわしい相手に


ふさわしいだけ


届ける役目




そしてその時が来るまで


わたしはわたしの持っている情報が


不用意に漏れないように


しっかりと鍵を締めていた





旅人の衣装はフード付きで


自分が何者かを隠したいときに


ちょうどうまく隠せるようになっている


この世を生きる便利なアイテムだ



そして、自分を表す場では


さっとフードを外し


瞳を相手に見せる


瞳で会話することが


わたしの一番の礼儀と心を


伝えるやり方




旅が進むごとに

わたしは伝達するにふさわしい相手を見つけ


フードを外し


瞳を現してきた




わたしの道行きは


ひとつ一つのコマが


道なりにずっと続いており


必要な時に


鍵を開けて



情報を届けることで



コマの構成している


文様の大切なパーツに


エネルギーが注がれていた



自分が大切と感じた時に鍵を開けたことで


わたしは文様に力を与え活性化させてきていた



少しづつ


わたしの鍵は



わたしの意図とは無関係に


開き


内側から情報の扉が開こうとしていた




ところどころで鍵を開けてきたことで


わたしが旅路で描いてきた文様に力が注がれて


エネルギーの回路が開き


しまってあった



情報たちが


まるで意思を持ったように


喜び勇んで

わたしの中から




鍵を開け

躍り出てきた




そうなってから


わたしは


来る日も来る日も




喋り続けた


目の前にきた者は御構い無しに


わたしの情報を浴びせられることとなった





これまでしっかりと鍵をかけてきた分


鍵が効かなくなってからは


縦横無尽に


膨大な情報が


流星のように


わたしから飛び出して


自分の意思では


コントロールが効かないくらいだった



情報たちは


外に出られて


本当に嬉しそうだった


本当はずっと外に出たかったのだ



そして


わたしから散々星の言葉たちが


溢れ出て


洪水を起こし



見える世界一面に


情報たちが降り積もり


まるで


星の砂でできた海にいるようだった





皆、浴びせられたわたしの情報にすっかり慣れ


体を星の砂に埋めては


ゆっくりと眠っているものもいた




銀河の情報は


本来私たちの体を構成するものであるから


もともと肌馴染みが良かったものを



ここで再確認することとなった



今は


私たちは銀河の情報に埋もれて


暮らしている



銀河の始まりが


常に私たちの体にあり


全ての記憶は



わたしだけでなく


あらゆる人のものになった



成り立ちから


繁栄の過程の全てを知ると


人はどうなるか




人は全てのことを知っても



全く変わらずに



その人を全うする


歩くこと



眠ること


歌うこと




何も変わらない


何も変わらないが


ただひとつのことが

加わる



それは


自分が奇跡の存在であると


体を持った全員が


知っているということだ





奇跡が歩いている



奇跡が眠っている



奇跡が歌っている



そんな風に


感じるようになるのだ




わたしの中の鍵は


あれから壊れたまんまだが


もう必要のなくなった


錠を指で胸から外し



わたしは


星の砂地に


横になった


肌に触れる砂の柔らかい感触が


わたしにまどろみを囁いていた


錠を指に引っ掛けたまま


わたしは



目を閉じて


銀河の最初を



瞳の中に再生した



旅人のフードをかぶっている時も


脱いでからも


わたしはずっと幸せだった



情報たちは


そのことをちゃんと知っていた


わたしはあいされていた








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