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竹林の中
ひとつ
まっすぐに
しなやかに伸びている一本があった
この節のある植物の
長く伸びて
しなる様は
わたしの歩く道筋で
ここを歩くことこそが
わたしの人生のすすみかただった
だけどわたしは
本当は
節の一コマ一コマを歩くのではなくて
竹の一本に沿いながら
飛びたかった
背中の蝶の羽根を
誰にも断ることなく
さあっと取り出し
のびのびと広げ
黒と明るい黄色の模様が
綺麗に描かれているのが
はっきりとわかるように
伸びやかに広げた羽根で
月に向かって飛びたかった
そしてある時
わたしは竹のしなる道から
足を滑らせて
落っこちた
そして落ちた衝撃で
背中がビリリと破け
意図しなかったタイミングで
柔らかな光とともに
わたしの羽根が
ゆっくりと顔を出した
羽根は
自ら光っていた
鱗粉をあたりに巻いて
ふわあっ
ふわあっ
と動いていた
わたしは少し驚いていたし
最初のうちは
まるで自分とは違う生き物が
背中で勝手に育ったような
気がしたが
何度か羽ばたきを繰り返すうちに
だんだんと
わたしの心の奥の方と
羽がつながっていることを
感じ取った
歩く方のすすみかたを信じていたのは
わたしの頭
飛ぶ方のすすみかたを信じていたのは
わたしの心
そして実際に羽が出ているのを
目の当たりにしたら
飛ぶことを選んでいたのは
わたしの心の奥に住む
わたしであって
わたしでないような
とっても大きくて優しい
グランマンマーレだった
わたしは羽を揺らしながら
鱗粉の発光をみながら
まるで自分が
グランマンマーレになった気持ちで
わたしが羽を動かすことを
よろこび
優しい眼差しで
みつめていた
竹の幅以外にわたしが進める場所があったと
わたしは気が付いた
竹の細い幅から落ちても
わたしは
大きくて優しい
グランマンマーレを思い出しただけだった
落ちることもわるくはないなぁ
そうして二、三度羽ばたいた後
わたしはもう少しお腹に力を入れて
自分の体を浮かせてみた
羽根はわたしの意思と同じように
わたしを浮かせてくれた
わたしは自分の望む方向へ
体を向けて見た
羽はわたしの意思を汲んで
竹の周りを周回し
くるり
ひらりと
幹の周りを辿りながら
先の方へ
空の方へと
進ませてくれた
あたりは夜空だった
星の場所まで飛んでくると
ここはいつでも夜で
いつでも昼で
時間の区別をつけるような場所では
ないんだなぁとわかった
わたしは区切ることを
竹の節を歩きながら
覚えていったけど
飛ぶわたしには
数えることが
そもそもできなくなっていた
その必要も
数えられる単位も
ここにはなかったから
星をくぐりながら
わたしは月の方へ
近づいていった
グランマンマーレの手のひらで
柔らかく推し進められている気持ちで
ひょいひょいと
羽を羽ばたかせ
進んでいった
そして後ろに過ぎた地球を懐かしく
振り返り
竹にお礼を送った後
わたしはわたしの未来を
懐かしく迎えるために
羽根とハートの動きを
合わせて
宇宙の中を
大きな軌道で
すすみ始めた
グランマンマーレは
わたしの後ろにいて
わたしが飛ぶのを
見送り
嬉しそうに
笑っていた
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