top of page
検索
  • sunao

64


64



濃紺の


うつくしい織物がどこまでも広がっている



わたしは頬を埋めたいような


うれしい気持ちで


紺に寄り添っていた



わたしの魂に


じかに触れるこの


織物の感触


目で見える全ての場所に


北極で見る夜空のような


うつくしい青が広がっていた





織物は糸の重なりのところに


小さな小さな隙間がある



まるで

小さな小さな星が


いくつもかさなりあって


織物に折りたたまれているようだった




わたしの見ている濃紺の


上の方を


一羽


鶴が飛んでいった



右から


左へ


横切るように


スイーっと


わたしの視界の上の方を


飛んでいった




わたしはその


はっきりしたコントラストに


鮮やかさと


落ち着きと


とてもいい組み合わせで良さを感じて



だんだんと胸が落ち着いていった







深く青く星を包むものと


自律したうつくしい赤と白のいきものは


わたしの心の輪郭を



はっきりと際立たせてくれる


わたしは


すうっと


キリリと


自分が引き締まっていくのを感じた




そして自分の仕事を始めるべく


濃紺の織物の中から出て


大きな大きな腕を広げ


大きな大きな手を伸ばし


大きな大きな指と手のひらで


濃紺の織物を


持ち上げて


深く青い世界を


袋のようにして包んだ





その時あたりはとても静かだった


なんの音もなく


何も動かない


一番静かな状態だった




と同時に



一番大きな音がそこには響き渡っていた





静と動のどちらもが


そこにあって


わたしはそれらが


ちょうどよく釣り合うポイントで


濃紺の織物を広げなおした




一番静かな時に


何かをすると


一番大きく音が響く


わたしは


わたしの宇宙に


一番大きな振動を


響かせた



そうして


響かせて

震わせて


伝わらせて


届けて


一番大きな振動が


わたしの宇宙を徹底的に震わせて


わたしの宇宙にあった


チリ ほこり ごみ その他 必要のなくなったものたちを


すっかり外に出した



そうした行為に


損得勘定はまるでなかった




ただ必要と思えることを


淡々とやった


わたしの仕事は


そんな風に進められた



一番深いところに響くように


繰り返し大きな振動を


響かせ


何度やっても

ピタリと良い具合に


チリやゴミが


スッキリ落ちて


大きくて深い濃紺の世界が


ただ美しくあるように


整えた






わたしの整えが


きちんと終わると


またどこからともなく


鶴がやってきて


この濃紺の宇宙が


鶴が飛ぶにふさわしい


厳かで


うつくしく



澄んだ場所であることを


教えてくれた


わたしはわたしの可愛らしい手慰みも

愛していたが


この濃紺の宇宙を扱う仕事は


それとははっきりと違う


それはわたしにとって


魂が震えるほど


大切な仕事だった




大切だからこそ


静かに静かに


間違いのないように手を動かし





作為のない自然現象としての鶴の登場で


宇宙の均衡が保たれているのを確認した


自分で計測するのではなく


宇宙が知らしめてくれる


鶴という自然現象が


1番の証左だった




わたしは


きちんと


自分の行いが


宇宙に届いていることを確認すると



安心して


また濃紺の世界を


広げる


なんどもなんども



このうつくしい織物を


わたしの手で


広げる



わたしは


魂をじかに撫でられるような心地の


この仕事を


愛している




織物と


星と


鶴と


魂の震えと


わたしで出来上がっているこの仕事を



とても愛している









Comments


Commenting has been turned off.
bottom of page