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はじめ
わたしの体は
山のような岩の塊のような
重量のある
どしんと響く
大きなものだった
赤い着物を重ねて来て
黒髪を垂らし
たくましい体で
足をどんと
岩に投げ出し
踏みしめれば
地盤につながり
重く
迫力のある
近くにいるものをなぎ倒すような
肉の身の迫るような
ものだった
わたしは
自分に揺るぎない母性と
自身を持っていた
母であるわたしは正しい
ママであるわたしは絶対
この世の条理を振り回して
なぎ倒して
あらゆるもの根こそぎ
ふんづかんで
引っ張り回すような
母性の迫力
そんな強い景色を見ていた
ある時
ふんづかんで
世界の条理をなぎ倒して
振り回していたら
理由もなく
体の力が抜けて来て
それまでのたくましく
格好良く
迫力のある
分厚い体が
だんだんと輪郭が薄れ
軽くなり
シュウシュウと何かが抜けていった
赤く鮮やかな着物を
重ねて来ていたが
だんだんとそれがぶかぶかに大きく感じられ
わたしの体は
着物の中で
どんどん小さく
軽く
薄く
なっていった
やがて小さな
ぽっちり
と、手のひらに収まりそうなくらいの
サイズになった
この体になってみると
世界の条理を投げ飛ばしていたことが
はるかに遠い昔のことに思えてくる
わたしのあの肉の体は
今のわたしには遠いものになり
かすかに漂う霞が
サラサラとあたりに
流れていた
わたしは一息吸い込んで
体の中に残っていた
熱すぎる温度を
口からさらりと
吐き出した
ふぅ
と最後の息を吐き切った後
わたしは軽い体ににあった
新しい着物を纏った
今度は赤だけではなく
しろや
うす緑や黄色や
桃色も重ねて
わたしの体に
しっくりと合う
よろこばしい着物を
肌に合わせた
小さく軽い体は
浮かび上がりやすく
体の力の入れ方を
少しコントロールするだけで
簡単に空気の中に
登っていくことができた
スルスルと
浮かび
幸せに
かすかな光の反射を返している
わたしの
新しい衣
なんの力もかけなくとも
かすかに願いを空気に乗せるだけで
その場所へ浮いていくことができるし
わたしが小さく喜んだことには
太陽の光が降り注ぐ
こんな風に軽くささやかに
風に乗っているだけで
わたしは自分が
自分でいることを証明できている
このことが何より嬉しい
わたしは
幸せを自分の中に
通すことが
ちゃんとできている
地球の表面にいながら
それはちゃんとできることだった
新しい衣を着て
星座に座り直し
顔を空の方に向けて
かなたにある
宇宙の星
その中でも
とりわけ光を濃く光らせている太陽を
見上げた
わたしの瞳の
一粒の光が
太陽の光と通じ
わたしは小さく軽くなったけど
なぜだか
前よりも
とてもしっかりと自然の軸を
体の中に通していることがわかって
ああ
わたしはわたしを信頼しているんだなぁ
と感じた
太陽の方にも
それが伝わった様子で
わたしは胸の内にある
自分の柱を
しっかりと手で掴み
一番わたしにふさわしい場所に
ゆったりと座り直した
わたしの中にある
正直で
爽やかで
すっきりと伸びる
新しい柱に
わたしは座っている
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