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  • sunao

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わたしは駆ける



牧草地帯を


わたしは


わたしの力を発揮して


走っている




馬の体のわたしは


自分の脚力を讃えて


「わたしは良い走りができる」



と知っていた



わたしのこの自分の活動を


きちんと認めて


自負を持って



走ることを


わたし自身の根底にある自意識の樹が




幹を太くするように

良いものだと感じていた




わたしは高山地帯の牧草地を


まっすぐに


山々の姿がよく見える場所まで


駆けた





四つの脚の筋肉が躍動する様



下半身の筋肉と連動して


上半身や


太い首の筋肉や


体幹に神経が走る感覚を



力強く心地よいものとして


味わっていた




こんなによく繋がって

しっかりと動く体は


なんと素晴らしいものだろうか





柔軟に動く筋肉は


こんなにいいものだ


わたしはわたしが自慢だ



心から誇らしい




わたしはある山の高みから



落っこちたことがあった




牧草地が続いていると


頭で思っていたが




実際には


そのさきは崖で



頭の認識と


体の止まろうとする動きとが


わたしの中でぶつかり



崖から転落した



重力に従って


落ち始めた時に


わたしは





これはやってはいけないことだった




直ちに


自分の道に戻らなくては



と感じた



そして



その、戻ろうとする意思が


体から湧き上がってきた時に


わたしは四肢が



意思に従って


茶色い山の突端に


しがみついて


突き出した


低い崖に


降りることができた






もともと粘り強い筋肉がついていたから


わたしは踏ん張りがきくので



じっと重力を受けて立てることもできたのだ




落ちてしまったが


わたしには


また高山に戻る決意があった




そして


その時に


茶色い崖の上に立ち



見ていた景色は


これまでに見たことがないものだった





薄く雲がかかっていた空は


太陽の光が差し込み


しろや水色や黄色の



オーロラのカーテンが



広がっていた





鮮やかというよりも




それは


安心感を覚えるような




柔らかな色味だった


儚いようだが


しっかりとそこに広がる



光のカーテン



わたしは


自分の体の筋肉のあらゆる箇所に


その光のカーテンが


届いたような気がした






眺めているだけで



その柔らかな色味に


自分が包まれ




守られているような心地になった







そして


実際に崖から落ちた衝撃で



打ち身になっていた箇所は


また体液が循環する


状態に



回復していた





守られる



その感覚を


わたしは茶色い崖の上で



ゆっくりと味わっていた






そろりそろりと


歩を進め




わたしはまた進み始めた




登り方は


体が知っている






わたしはただ


視界に




自分の進む道を


捉えているだけでいい





それだけで


わたしの馬の体が


わたしをまた



山の頂に運んでくれる





わたしは馬の


しなやかに揺れる尻尾を



光のカーテンの端に


結び




山を駆け上がりながら


峰いっぱいに


柔らかく光る幕を翻して



走った




わたしが走るごとに


山は少しづつ


光の幕に覆われていった






低い場所では

木の茂みを通り



高位場所では


草木やところどころに顔を出す岩肌を




乗り越え


頂に近づいた







そして



以前とは違うルートを辿って


わたしは



あたりの山を全て見渡せる


一番高い山の



頂上に佇んでいた






尾に結んだ

光のカーテンは




切れることなく


空から山にかけて


広々と



はためいている





わたしは




深い自信と



満足と



自尊心




そして



守られている安心を



ゆっくりと


味わった





わたしの馬の体は


わたしをよくあらわしてくれた




わたしは


ここに来られて


本当に満足している




この素晴らしい乗り物よ





わたしのたくましい

馬の体よ




感謝しているよ





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