top of page
検索
  • sunao

75



75




わたしはたどり着きたい



わたしには


素晴らしいものが用意されている



緑の草が揺れる


資源豊かな山


勢いよく流れる


清らかな川



実をつける木がたくさんある


鮮やかな花の咲く丘




わたしにはそういった


誰が見ても素晴らしいと感じる


幸せな景色が用意されている





だけど今のわたしは


陽の当たらない山の土を掘っている


この採掘作業は


山の中を通り抜けて


向こう側へ通路を通すための


大事な作業



わたしはバイタリティがあるので


コツコツと


ガシガシと


掘り進めてきた




わたしに用意された


素晴らしい景色には


目もくれず



しっかり掘ることだけを


自分の手で掘って進むことだけを


やってきた




山の真下を


くらい穴の中を


進んでいた時の孤独感は


胸に迫るものがあった



これが


孤独か



これが


寂しさか




人間でいることは


なんて重い勉強があるんだろう



わたしはただ


穴を掘った先で


眩しい太陽を


浴びたいだけなのに



わたしは掘り続けた
















いつしか


掘り進んだ


山のトンネルの中に



わたしが書いたのではない


絵が描かれているのを見つけた






それは





猫や


その他の動物や


空の風景や



星の姿


太陽や月の


空を動く様子が



たくさんの


点や


丸や



線や


色で



描かれていた








この絵を描いた人たちが


あらゆる祈りを込めていたことも


絵を眺めていると


よく感じられた







この宇宙にあるもの全てが


関係しあい


今生きている人の目で



眺めることで


うつくしさを増していく






その喜びを


描いた壁画






暗闇に目が慣れてきた頃に


その壁画を見つけて


わたしは


ハッとした






何か大きな贈り物を




もらったような心地がした









わたしが


暗がりは暗がりと


思い込んでいただけで






ここには


明るい外にはない


素晴らしい財産が


描かれている






わたしは自分で


このトンネルを掘ってきたはずなのに



今まで



この重要な価値を感じる

壁画に気がつくことがなかった





わたしは


この壁画を


発掘していたのに



そして

トンネルにいる




わたしだけが


この壁画を見ることができるのに





先に進むことばかりに気を取られて


あまりに多くの財産を


見逃していた






そうか

孤独の中にいるときも


わたしは




明るい外にはない






素晴らしいものに囲まれていたし





この壁画を描いた


先人と



同じ道を辿っていたんだ









わたしは一人だったけど



わたしの心は


いつも

たくさんの存在に

囲まれて



一緒に進んできていたんだ






わたしは

一人だったけど


一人じゃなかった




わたしにしか見えない宝物たちに

ずっと囲まれていた





わたしにしか見えないもの



わたしが気づくと

価値が生まれるもの



わたしに用意されていた素晴らしい景色





明るい陽の中にあるものとは

違う


祈りの壁画





多くのエネルギーが込められている



先人の残したもの



表現された




宇宙の叡智







わたしのバイタリティは


この暗がりに潜む




うつくしいものを知るために



備わっていたのか








わたしはトンネルを掘り始めてから


距離を計測していた





もうじき山の向こう側へ出ると


計測器が教えてくれていた





わたしが山の中で見つけた宝物は





孤独と



感じる心と




観察するまなざし




それらを使うことで



わたしはわたしが生きている宇宙が



自分にとって



うつくしいものであると

知ることができる




それは


わたしの胸が

勝手にどくどくと

高鳴るようなこと



わたしの体から

勝手に涙が

溢れてくるようなこと




わたしの魂が

全ての輪廻転成を

喜んだようなこと





トンネルの

最後の土の壁を

掘り

向こう側の外の光がすけている





コツンコツンと

掘り進めて


やがてわたしは

外に出た





トンネルから

足を踏み出して





陽の光を浴びて



そして



壁画が土の中に眠っていた

長い時間のことを思い返して




大きな声で


泣いた





太陽に


見守られながら



この世の全てを



讃える気持ちで



泣きながら



自分の名前を叫んだ





わたしは



わたしだ





この世の誰よりも


わたしだ





ありがとう






と声に出して



世界に自己紹介をした






わたしはしあわせだった








Commenti


I commenti sono stati disattivati.
bottom of page