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わたしはたどり着きたい
わたしには
素晴らしいものが用意されている
緑の草が揺れる
資源豊かな山
勢いよく流れる
清らかな川
実をつける木がたくさんある 森
鮮やかな花の咲く丘
わたしにはそういった
誰が見ても素晴らしいと感じる
幸せな景色が用意されている
だけど今のわたしは
陽の当たらない山の土を掘っている
この採掘作業は
山の中を通り抜けて
向こう側へ通路を通すための
大事な作業
わたしはバイタリティがあるので
コツコツと
ガシガシと
掘り進めてきた
わたしに用意された
素晴らしい景色には
目もくれず
しっかり掘ることだけを
自分の手で掘って進むことだけを
やってきた
山の真下を
くらい穴の中を
進んでいた時の孤独感は
胸に迫るものがあった
これが
孤独か
これが
寂しさか
人間でいることは
なんて重い勉強があるんだろう
わたしはただ
穴を掘った先で
眩しい太陽を
浴びたいだけなのに
わたしは掘り続けた
いつしか
掘り進んだ
山のトンネルの中に
わたしが書いたのではない
絵が描かれているのを見つけた
それは
猫や
その他の動物や
空の風景や
星の姿
太陽や月の
空を動く様子が
たくさんの
点や
丸や
線や
色で
描かれていた
この絵を描いた人たちが
あらゆる祈りを込めていたことも
絵を眺めていると
よく感じられた
この宇宙にあるもの全てが
関係しあい
今生きている人の目で
眺めることで
うつくしさを増していく
その喜びを
描いた壁画
暗闇に目が慣れてきた頃に
その壁画を見つけて
わたしは
ハッとした
何か大きな贈り物を
もらったような心地がした
わたしが
暗がりは暗がりと
思い込んでいただけで
ここには
明るい外にはない
素晴らしい財産が
描かれている
わたしは自分で
このトンネルを掘ってきたはずなのに
今まで
この重要な価値を感じる
壁画に気がつくことがなかった
わたしは
この壁画を
発掘していたのに
そして
トンネルにいる
わたしだけが
この壁画を見ることができるのに
先に進むことばかりに気を取られて
あまりに多くの財産を
見逃していた
そうか
孤独の中にいるときも
わたしは
明るい外にはない
素晴らしいものに囲まれていたし
この壁画を描いた
先人と
同じ道を辿っていたんだ
わたしは一人だったけど
わたしの心は
いつも
たくさんの存在に
囲まれて
一緒に進んできていたんだ
わたしは
一人だったけど
一人じゃなかった
わたしにしか見えない宝物たちに
ずっと囲まれていた
わたしにしか見えないもの
わたしが気づくと
価値が生まれるもの
わたしに用意されていた素晴らしい景色
明るい陽の中にあるものとは
違う
祈りの壁画
多くのエネルギーが込められている
先人の残したもの
表現された
宇宙の叡智
わたしのバイタリティは
この暗がりに潜む
うつくしいものを知るために
備わっていたのか
わたしはトンネルを掘り始めてから
距離を計測していた
もうじき山の向こう側へ出ると
計測器が教えてくれていた
わたしが山の中で見つけた宝物は
孤独と
感じる心と
観察するまなざし
それらを使うことで
わたしはわたしが生きている宇宙が
自分にとって
うつくしいものであると
知ることができる
それは
わたしの胸が
勝手にどくどくと
高鳴るようなこと
わたしの体から
勝手に涙が
溢れてくるようなこと
わたしの魂が
全ての輪廻転成を
喜んだようなこと
トンネルの
最後の土の壁を
掘り
向こう側の外の光がすけている
コツンコツンと
掘り進めて
やがてわたしは
外に出た
トンネルから
足を踏み出して
陽の光を浴びて
そして
壁画が土の中に眠っていた
長い時間のことを思い返して
大きな声で
泣いた
太陽に
見守られながら
この世の全てを
讃える気持ちで
泣きながら
自分の名前を叫んだ
わたしは
わたしだ
この世の誰よりも
わたしだ
ありがとう
と声に出して
世界に自己紹介をした
わたしはしあわせだった
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