78
わたしは
位のある役人で
馬を走らせ
自分の役割に邁進していた
明るい茶色の馬の背にまたがり
黒い鞭を
打ち鳴らして
先へ先へ
任務を追いかけるように
走っていた
わたしには大事な仕事があり
それを全うするのが
わたしの使命
何人たりとも
わたしを妨げることは
許してはいけないのだ
やる気と情熱を持ってわたしは
馬を鞭打って
走らせた
しばらく走ったところで
わたしは
馬の走りが鈍くなっていることに気がついた
なんども鞭を打って
わたしの意思を知らしめたが
馬の反応は鈍かった
なぜだかわからずに
わたしは
戸惑い
鞭打つ手を止めた
一瞬間が空いて
急にわたしの意識は
自分の体を抜け出し
馬の中に入り込んだ
人間とは作りの違う馬の体は
たくましく筋肉が連動し
熱く躍動するようだった
そして人間とは違う
何か別の意思に導かれるように
走っていることがわかった
わたしは馬の体に入って初めて
これまで付き合ってきたこの馬が
わたしの意思ではなく
大地を流れる
地球の意思に
導かれて走っていたことに
気がついた
これまで
この栗毛の美しい馬は
自分の意思の下に
従えている生き物だと思っていたが
わたしのほうが
支えられて
地球の意思に導かれていたのか
驚きとともに
自分の中の自尊心が
逆転するような感覚が起こった
わたしが導くのではなく
導かれていた
頭で思うこと以上に
地球上をいく筋も流れている
星の喜びの流れに
知らず知らず
寄せられていた
この馬は
わたしが鞭打つにも関わらず
自分の感じている流れを
外れることがなかった
そのことが結果わたしを
1番の豊かさに
出会わせてくれていた
馬の体に入ったわたしには
明るい金色の
川のように流れる筋が
地形のあちこちにあるのが見えるようになっていた
馬は
明るい金色の筋を
迷うことなく進んでいた
そこを進むことが
自分にとっても
地球にとっても
自分が載せている人間にとっても
一番良いことだと
わかっていたからだ
馬の自分を信頼する感覚や
地球へ自分を捧げている姿勢が
わたしには
素晴らしいものに思えた
自分にとっての最善は
地球にとっての最善と一致している
わたしは
馬の体に入って
そのことを
学んでいた
そして
また一瞬のうちに
わたしの意識は
人間の体に戻っていた
わたしは
何かとても大切なことを
学んだ後の
自分がちっぽけだと感じる感覚や
何か大きなものに許されている感覚を
自分の体で味わっていた
そして
今は
馬の体に入って見たように
明るい金色の
流れる筋が
見えるようになっていた
あちらにも
こちらにも
うつくしい
金色が
流れている
わたしは無意識のうちに
手を動かし
今度は優しくなぜるように
馬の体に手を置き
少し太い方の金色の流れに
進むよう
心のうちで馬に伝えた
馬は瞬時に身を翻し
空に
喜びの声を投げた後
わたしが差した方の
金色に
走り寄って
流れの真ん中を
堂々と
駆け出した
わたしは
自分が馬と一緒になって
走っているような感覚で
金色の流れを味わっていた
わたしは
許されている
この金色の中を
進むことが
喜ばしいことだと
わかる
そして
馬も同じように
喜びの中にいる
許された心地の中で
金色の川を走っている
わたしの使命とは
わたしや馬や
そのほか大勢の生き物が
ただ喜びの感覚にまっしぐらに進むことを
知ることだった
任されたから
任務だから
進むのではない
わたしは
感じることを自分に許せば
いつでもこの
地球の上を流れる
金色の流れを見ることができ
そこを進む喜びを
味わうことができたのだ
わたしは
鞭を打っても進まなかった馬に
心から感謝をした
わたしが
許された感覚と安心を知るために
あの時進まなかったのだ
今こうして
一緒に走りながら
初めて馬のたましいが
姿をあらわしてくれたように感じた
わたしは確信を持って
自分の行く先が
喜ばしいもので在ると
知っていた
わたしは生きることを
選び直し
ただ喜びの金色の流れを進むことを選んで
馬と一緒に
どこまでも走った
わたしは自由の意味を
知った
それはとても
安心するものだった
わたしは
身体中の意識が
ホッとして
先に進む足が
とても喜んでいるのを感じた
わたしは
しあわせだった
Comments