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わたしはゆったりしたソファに
腰掛け
足を組み
ドレスの裾が流れて足が覗くのを
見た
わたしは真っ白な体に
優雅な物腰を備えた
品のある女神で
白い猫を飼っていた
月の名前がついたその
猫は
一声鳴くと
わたしへの敬愛と
忠誠を込めて
わたしのふくらはぎに
その柔らかな毛並みをすり寄せた
わたしは長らく自分の望んだことを
望んだように
世界が表すのをたのしんでいた
わたしが望んだことは
そのままその通りになりわたしが望んだことを
世界がそのまま表現する時
世界は敬愛を込めてわたしに微笑んだ
わたしがここに腰掛け
世界を眺めていることを
世界の側が喜んでいた
わたしの真っ白な体は
だんだんと白くなっていったものだ
極彩色の体を持っていた始めの頃は
全てが騒々しく
あらゆるものが忙しく動き回っていたが
だんだんと活動していたものは
熟し
深みを覚え
長い年月を経ることで
美しく白くなっていった
長い長い時間が経験されることで
なめされるように
わたしの世界を映す
あらゆるものは
光に染まったように
白くなっていった
わたしの体も
懐かしいような淡い色が縁取っているにすぎない
人が記憶の中でわたしを思い返すとき
面影の印象は
上質なシルクのカーテンに隠される人影のように
柔らかな輪郭に
影が現れる
わたしは本当に長いあいだ女神でいたから
その権力も
そのうつくしさも
その夢のような能力も
その神々しさも
全て白い影の中に込められた
たくさんの記憶が詰まっている
真っ白の景色の中にわたしはいる
長椅子に腰掛け
猫を使わし
優雅に肘をついて
天を見ている
不可侵の空間で
くつろぎながら
わたしは余白の自由を
堪能していた
うつくしくいるということは
何からも自由でいるということ
白く柔らかな
たくさんの記憶に支えられた場所で
わたしはうっとりと
思い巡らせている
小さい娘だった頃のことも
思い出せるが
それよりも
今のわたしは
自分が世界の絶対的な権威であったことの方が
懐かしい
胸をよぎるたくさんの偉人との会合も
わたしの好きな時間遊びの一つだ
緩やかなカーブを描く額から
流れる髪が
わたしの耳にかかっている
繊細な織物の袖口には
白金の糸で刺繍されたレースが彩られている
わたしは満足げに
わたしの使い猫の首筋をなぜて
このこと過ごしてきた
星の誕生からの時間のことを思った
アルテミス
お前は
わたしに優しく忠実であったね
白い窓辺に
もたれて
わたしは外を見やった
銀河の渦が
うす青い円を描いていた
同じ色に染まった瞳を
プリズムのまつげで覆い
わたしはドレスの裾を持ち上げた
わたしは長い時間を過ごしたことへ
満足の意を示して
窓の外の銀河に
腕を振った
猫は
気だるそうに
嬉しげに
ピンと張ったヒゲを燻らせて
わたしに視線を投げてよこした
わたしは全てが満たされた
懐かしむ気持ちで
椅子に深く座りそのまま体を預け
目を閉じた
そのまま
ゆっくり眠った
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