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わたしは王子だった
だけどある時わたしは
玉座に座ることを
やめることにした
そして
自分が積み重ねてきたものを
一つづつ体から外していき
なんの知識も持たない体に
戻ったところで
胸につけていた
雫型の石を
最後に外した
コトリ と石を
置いた瞬間に
わたしの体は
内側から発光し始めた
一瞬にして最大光量まで輝き
眩くて自分で自分の姿が見えないほどだった
わたしは自分が光っていることに
驚いてはいなかったが
あまりに眩しかったので
自分の手がどこにあるのかが
正確にわからなくて少し困った
宇宙の黒い背景の中で
わたしはあまりに眩しく光っていたので
まるでそこだけ白い丸がぽっかりと空いているようだった
目視しにくい自分になって
わたしは目で自分の特徴を見ることが
ほとんどできなくなった
そしてとても大切なことができるようになっていた
わたしは
自分の体から
知識や情報を
取り出せるようになっていた
あらゆる情報は
わたしの中から湧いて出てくるようになり
必要なことは
自分の光の体に尋ねると
お腹のあたりのあちらこちらから
文章の帯が
出てくるようになっていた
白く光るわたしの体は
ぎっしりと情報が詰まっていたが
いたって軽く
薄く
質量はほとんどなく
物質的には何もないに等しかった
ただ必要な知識だけが
呼び出すごとにわたしから
流れるように
わたしを取り巻くように出てくる
追いかけなくとも
全て必要な知識は
わたしの発光するからだから
出てきた
それからわたしは
わたしの体の周りを流れている
きちんとデザインされた形の言葉たちを
手にとって遊んだ
わたしはもう追いかけることをしなくなったし
得た知識を翻訳できずに困ることもなかった
全ての情報は
たくさんの星々からわたしの体に集約しており
わたしが軽く指先で
触れればすぐに
文字が流れるように出てきた
たやすいことだった
ここまではさほど驚かずに変化したことだった
わたしは
溢れる泉のような喜びを覚えたのは
この後に起こったことだった
わたしはある時
わたしの出自に関する
一つの情報を
わたしの体から引き出した時に
自分の発光体の体の中で
何かポンと
音を立てたのを聞いた
そしてその音が
タンクの栓が抜かれた音だと感じた
次の瞬間
わたしの体の中から
まるで温泉が湧くように
情報が溢れかえって
ジャバジャバと流れ出てきた
地球の中に溜まっていたたくさんの情報の出口は
どうやらわたしだったようだ
観察してみると
わたしの体の中には
地球からつながった
白い知識のパイプがあって
そのパイプを通じて
知識の水が
どんどん流れてきて
パイプの出口になっている
わたしの体から
シャワーのように
知識が噴き出して
きていたのだった
わたしの奥に備え付けられていた
パイプの栓が抜けたことで
今まで溜め込まれていた分
水圧が高まり
勢いよく
知識のシャワーは
溢れ出てきていた
その時わたしは
これが愛なのだと思い出していた
わたしから
溢れかえって噴き出してくる
この知識たち
こんな風に
何もせずとも
わたしのなかに
地球の知識の出口があったこと
そこからただ知識たちが
どんどん溢れて出てくること
溢れるままに
わたしが知識を出し続けていること
能動的にならなくとも
わたしという存在の中に素晴らしいものを表出させる回路があった
それは宇宙のそこかしこにある
愛の仕組みの一つだった
わたしは実際に
この流れが溢れ出してから
わたしの中に栓をして眠っていた
仕組みの価値に気がつき
始めて
声をあげて驚き
わたしのなかにある
愛の仕組みに
その構造に
歓喜した
わたしのなかにあった
知識の出口は
わたしの中にあった
どんどん噴き出してくる
知識の源泉に
わたしは包まれ
とても幸せな喜びの中にいた
わたしの中にあるこの愛の仕組みよ
わたしに備わっていた
知識の回路よ
わたしは
なんてすごいものを
わたしの中に仕組んでいたのか
溢れてくる知識は
わたしにちょうどよく馴染む温度で
とても気持ちが良かった
自分が一番自分をゆるめられるものを
こんなにふんだんに
浴びせられるなんて
栓の抜けたわたしは
豊かさの中にあり
愛の仕組みを自分の中に見つけたいま
温かい温泉の中にいるように
しあわせの中にいた
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