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  • sunao

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わたしは崑崙山にすむ仙人だった


ある時

星の運行をもっと近くで見

よりこの世の現象を知るために

わたしは宇宙にレールを敷いた



このレールに沿って

進んで

手に取れる星を一つづつ

観察して

学べば

わたしはこの世の細かな現象の全てが

わかると思っていた



多くを学び

知り

「わかる」

状態になりたかったわたしは

意気込み

レールの先に進むことをよしと感じていた



わたしは学ぶ方法を自分で決めて

その通りに動いている

わたしは間違っていない





そうして歩を進めながら

星を手に取り

細かに観察を続けた




しかし

わたしはだんだん混乱していった

星の観察をしても

わたしは自分が

「わかる」状態になったと感じることがなかった



困った



ある時

この先わたしはレールを進んでも

何も学ぶことはできないのじゃないだろうか

と思いレールを歩くことをやめて


一度休息のために立ち止まった



体の動きを止めたら

今までは

「動いて行動していればきっと大丈夫だ」

というモットーも手放してしまったようで

だんだん悲しくなってきて

しゅんとした気持ちで

涙をこぼした


わたしは心のままに

さめざめと泣いた




その時だった



わたしの中に

急に

「わかった」がやってきた



わたしは泣くことを

自分に許し

自分の体を使って

そのことを体験した


そのことこそが

宇宙の叡智だった


わたしは

「泣く」がわかった



体は

さぁっと軽くなり

わたしの顔には

星の光が差していた


わたしは嬉しかった


体を覆っていた

いくつもの道教の士の衣を脱ぎ

胸をはだけ


自分の心のありかを

宇宙にさらけ出した




そこへ

軽やかな軌道を描いて

真空に浮かんでいた星たちが

わたしの胸へ

飛び込んできた



いくつもいくつも


まるでわたしに知ってほしいような

そんな勢いで

星の方から

わたしの体の中に

やってきた




これまで追いかけ知ろうとしてきたものが

「泣く」がわかったことをきっかけに

追いかけていたものの方からこちらにやってきた




このように幸福なことがあるのだと

わたしはまた

一つ知った



わたしの体の中に飛び込んできた星たちは

赤や青の丸い形で

それぞれに光を放っていた



そしてその全てが

一つ一つの知を持っていて

この世にある

あらゆる知識を

わたしの体の中で

わたしにたくさんのことを

伝えてくれていた



わたしはどんどん知っていった




わたしの体の中で起こっていることが

わたしにたくさんの知を与えてくれていた



わたしは佇むほどに

この幸福を全身全霊で味わっていた



わたしは「わかる」



体を通して学んだことが

わたしの中で瞬いている


これはとてもしあわせなことだった



味わい尽くすのに

これからの時間を使うのもまた

しあわせなことだった





わたしは自分のプライドが

宇宙の空間の中で

霧散していくのを感じた



わたしは何者でもない


偉ぶることも

低く見積もることもない


何も持たずとも

幸福であるし

たくさんの知を持っていることも

また

飾ることではない



わたしはわたしのまま

わたしでいる幸福を

時間をかけて味わった




星の光が

ぎっしりとわたしの中で

光を放っていた



全ての知を

自分の内に抱きながら


わたしは

宇宙の中に

佇み

ただ自分の幸福を

抱きしめていた



わたしは

しあわせだった








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