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  • sunao

94



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わたしを染め上げるもの



わたしの体は花びらに覆われていて



一枚一枚が薄桃色の


光を透かす薄さ



身体中についているので



わたしが身を振るごとに

ヒラリヒラリと

揺れる



わたしは茎も

根も

葉もいらない



わたしには

花弁だけでいい


わたしの身に沿うのは

柔らかいものだけでいい


わたしに触れるものは

品の良いものだけでいい




わたしは花の女王だったときに

許可を与えたものにだけ

触れることを許していた



わたしのプライドは

誇り高く

わたしの喜びを

きっちり管理していたので


花の色が異なるものも

わたしに許可なく触ることは

許していなかった




ただ

わたしには

一つ大事な遊びがあり

その時だけは

わたしの喜びは無条件になった




それは


天の高い高いところへ


誰の目にも届かないような



雲の上まで飛び上がり




一気に地面の方へ



体じゅうの花びらを


ハタハタとひらめかせ



体からすっかりなくなるまで




空中をとても速いスピードで



落ちること






期待に胸を

高鳴らせて



雲が近づいてくるあたりで


花びらたちが

さわさわと揺れ動き始める



そしてわたしが

ふっと息を吐いて

落ち始めた時



花びらたちは一斉に



わたしの体から


離れ始めて



青い空に


一枚一枚


ヒラリヒラリと


飛ばされていく





花びらたちは


ちりぢりになって


空に点々と花吹雪が待っているようだった



わたしは真っ逆さまに落ちるときに



花びらの他に







わたしを縛っていた


プライドや



わたしの中に残っていた



他の色の花びらへの抵抗感や



わたしが感じていた



許していないものに触れられる

嫌悪感が




さあーーーーっと



体から離れて


空に吹き飛んでいくのを感じていた




わたしは



丸裸になり



空から地面に降り立つ頃には




わたしの体の表面に


何も残っていない状態になっていた




わたしはすっかり素に戻り



花びらも


プライドも

持たない


わたしに戻っていた



そのことは

大変清々しい心地だったので



わたしは

花びらをつけていた頃には

考えられないくらいの

大きな声で


空に向かって

笑った



体の中を通り抜ける風



体の周りでひゅうひゅうと吹く風



空から降りてくる


花びらを含んだ風




全てが心地よかった





何もかもを手放したわたしに




雲の上からゼウスが微笑んだ




そして



わたしに新しい服を贈ってくれた



それは



全く新しい


始めて触れる


青色の流れるようなワンピースだった



手に触れると

なめらかな

少しひんやりとした感触が残った




新しい服に着替え



わたしは草はらに立ち


空を見上げた




わたしが空に手放してきたものは



全て



花を育てるための養分になる




そのことをわたしは知っている





わたしはこの新しい服を着ているから


当分は花の衣装は必要ないけれど




そのうち

また


薄い花びらを全身にまとって


天の方へ遊びにゆくつもりだ




また全身に


柔らかく

光を透かす花をまとって

天の方へ天の方へ

高く上がっていく




それを止めることは誰にもできないし



わたしはそのとき



自分出る喜びを


存分に思い出している状態だ



儚さを全身に纏いながら



自分の肝の座った心を


生きている




わたしの喜ばしい

天への道行きは

大いなる自分に返っていくとき




それまでは

ここでこうして


風に吹かれながら


青いワンピースを着て


地球にいよう








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