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わたしは囚われない
わたしはしっちゃかめっちゃかの
おもちゃ箱をひっくり返して
お城の中で寝転がっていた
わたしの体はよく跳ねるし
どこまでだってジャンプできる
そして賑やかな遊びを
誰の目も気にせず
ひゃーひゃー言いながら
没頭するのが
大好きだったし
そうやって遊んでいることで
わたしはわたしを十分に発揮できていた
わたしはそうやって
しっちゃかめっちゃかにしていることが
たましいのご褒美なのだった
このお城も
わたしが心ゆくまで遊ぶためにある
高い天井と
豪奢な飾り付けは
わたしによって飾りが壊され
布が破かれ
ぐちゃぐちゃに落書きされていたが
そのことで
明るさや
面白さや
生き生きした風が吹いていた
わたしはその風を
床に寝転がって見るのが
震えるくらい
好きだった
わたしはわたしの手によって
きちんとしているものを
くちゃくちゃにするのが
わたしの心を広げてくれる遊びだと
ちゃんと知っていた
わたしはだから
いつでも
自分が自分の相棒だったし
肩を組んで遊びを考えているときに
自分が未来の自分から褒められているような気がしていた
わたしがいる今は
未来の自分がわたしを褒めて
可愛がってくれているから
こんなに楽しいのだと
わかっていた
わたしはじぶんのお城にいて
壁についた
傷を見た
この傷は
わたしがあるとき
廊下に飾られていた槍の先を使って
落書きをしていたときに
引っ掻いてつけたものだった
わたしはイタズラが好きだったが
傷つけることは好きじゃなかったから
優しくいたわってあげる気持ちで
その傷を指でなぜた
そのとき
急に
お城の壁が
ゴゴゴゴゴと上下に分かれて
中からわたしの未来が
顔を出した
真っ白な光に包まれて
わたしの未来が
壁の中に現れた
それは
今とは少し違っていて
おもちゃの方から
わたしに遊んで欲しくて
わたしの住む国中から
わたしをめがけて
集まってくる
そんな光景が広がっていた
わたしはわたしのお城で
ひっくり返って
跳ねながら遊んでいる
そうすると
わたしが知っているおもちゃも
わたしが知らなかったおもちゃも
わたしに遊んで欲しくて
わたしに構って欲しくて
わたしの喜びの気持ちに触りたくて
国中から
よいしょよいしょと集まってきていた
わたしは
自分が退屈していた時間に
国中のいたるところから
小さなおもちゃも
大きなおもちゃも
わたしを目指して
長い道のりを進んできてくれていたと知って
思いがけないタイミングで
愛されている自分に気がついた
わたしはお城をしっちゃかめっちゃかにして
刺激を味わうことが
遊ぶことだと思っていたけど
未来のわたしは
国中から集まってくるおもちゃたちに
囲まれている
これは
愛されているということなんだと
わたしは理解した
そして
おもちゃたちが集まってくるために
わたしにはお城が用意されていたし
広間もあったし
楽しむ心も
備わっていた
わたしは未来が映った壁にそっと手を触れてみた
お城の壁は
くすぐったそうに
少し震えて
やがて未来の映像を映すのをやめて
普通の石の壁に戻った
わたしの心は
未来の映像が消えてしまっても
なぜだか暖かかった
わたしは未来に愛されていたし
そのことを味わうための
条件も
ちゃんと
今
用意されていることも知った
退屈して
天井に穴を開けているときも
落書きをしているときも
お城はわたしを愛していた
わたしは遊ぶ才能だけではなく
愛される才能も
持っていたのだった
心を落ち着けて
落書きを続けながら
わたしはわたしが書いている文字が
だんだんと丸くなっていくのを
感じていた
わたしは丸く柔らかいラインを
書きながら
だんだん気がついた
わたしの落書きは
自分への愛を伝える言葉になっていた
わたしを愛しているよ
と
どの落書きもわたしに伝えてくれていた
わたしにわかりやすいように
わたしの腕が自然に
言葉にしてくれていたのだった
わたしはやっと気がついた
自分に愛されていることを
その後も
ずっと落書きを続けながら
わたしは
幸せだった
お城はただその様子を見守って
わたしが愛の言葉を書きやすいように
壁を綺麗にしてくれていた
お城の中にいて
わたしから愛されて
わたしは
震えるほど
幸せだった
未来のわたしが
わたしの欲しかった答えを教えてくれてから
わたしはずっと
幸せだった
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